昨今、バーチャルリアリティ(VR)技術の成熟とその界隈の成長には目覚ましいものがある。特にゲームでは、続々と魅力的、且つ高評価を集める作品が誕生し始めている。2019年の「東京ゲームショウ」において、VR専用ゲームの『ASTRO BOT RESUCUE MISSION(アストロボット レスキューミッション)』が「ゲームデザイナー大賞」を受賞したのは、記憶に新しい出来事だ。
だが、一部値下げが行われた所はあれど、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)本体を始めとする一式を揃えるハードルの高さはあまり変化していない印象が否めず、一般への浸透にはまだ時間を要しそうな状況だ。
そんなVR絡みのタイトルを今回はピックアップ。
HMD本体を手に入れた暁にぜひ、体験してみて欲しい一本をご紹介する。
『テトリス・エフェクト』だ。
本連載では以前、『テト字ス』なる漢字パズルゲームを紹介したことがあったが、今回は正真正銘、紛うことなき落ちモノパズルゲームのパイオニア『テトリス』のお出ましだ。2018年11月12日、PlayStation 4用兼PlayStation VR対応ゲームソフトとして発売された完全新作。かつてセガで『スペースチャンネル5』、『Rez』と言った名作を手掛けたクリエイター、水口哲也氏率いる「エンハンス」制作による”VRテトリス”だ。
ちなみに2019年7月24日からはPC版がEpic Gamesストアにて販売中だ。こちらの対応HMDはOculus Rift、HTC VIVE。さらに4K以上の解像度にも対応している。
新次元のテトリスを想起させる言い回しだが、肝心の内容は上から落ちてくる「テトリミノ」と呼ばれる様々なブロックを横に並べて配置し、ラインを作って消していく、王道にしていつものテトリスである。
システム周りも昨今のシリーズでお馴染みの「ワールドルール」、またの名で「ガイドライン」に準じた設計。テトリミノをひとつだけキープし、好きなタイミングで切り替えられる「ホールド」、方向キー上でテトリミノを瞬間的に落下させる「ハードドロップ」などは本作にもそのまま採用されている。
ただ、本作には昨今の定番モードたる対戦が存在しない。
収録ゲームモードは2つ、「Journy Mode」と「Effect Modes」があるのだが、いずれもシングルプレイ限定。後者に関しては、オンラインに対応したスコアランキング機能はあれど、それ以外でプレイヤー同士で争う要素は完全に除外された内容になっている。
メインは「Journy Mode」となる。このモードは「Journy」……”旅”の名が現す通り、エリアごとに用意されたテトリスに挑戦していくステージクリア型の内容だ。
エリアには数種類のテトリス(ステージ)が用意されており、指定されたライン数を消す度に変化。最終的にエリア内の全テトリスで指定ライン消しを達成するとクリアとなって、次のエリアが解禁される。以降、その繰り返しになる。
大分単純な内容だが、本作の真骨頂は各テトリスのバリエーションにある。いずれも異なるビジュアルと世界観を持ち合わせた、独自のテトリスになっているのである。さらにラインを消す度に周囲の環境、音楽が変化し、より派手になっていく演出的な仕掛けも実装。まるでテトリスと一緒にリズムゲームと映像作品をまとめて楽しむかのような、唯一無二にして極上の体験を味わえるのだ。
実に27に及ぶ多彩なビジュアルと世界観があり、まさに色とりどりのテトリスを巡る旅(Journy)!そして、これらのテトリスはVRに完全対応。派手なエフェクトと音楽が融合した、言葉に表しがたい映像を楽しめる。
ここまでのスクリーンショットの通り、本作は昨今の「ガイドライン」を採用したテトリスでお馴染みのテトリミノごとの色付けが唯一、外されているのだが、それがこの映像と体験を実現するために活用されている。
また、「Journy Mode」限定で「ZONE」という独自システムがあり、発動中にラインを沢山消すとボーナススコアをゲット。また、詰まりかけた際の回避手段にも使えるようになっているなど、ゲームプレイの幅広さを描いたシステムにもなっているのも見所だ。
このように今時のテトリスにしては珍しい、シングルプレイ特化型ながら、それに絞り込んだなりの工夫とVRにも対応した圧巻の映像・音響表現でプレイヤーの五感に働きかける、唯一無二にして新感覚のテトリスに完成されている。ある種、『Rez』の要素を取り入れた『テトリス』とも言え、水口氏らしさも存分に感じられる仕上がりだ。
遊び心地はいつものテトリスだが、映像と音楽がシンクロして展開する作りもあって、今までのシリーズにない、唯一無二の高揚感と没入感が味わえる。特に映像の美しさは絶品の一言。ゲームプレイと音楽が絡むのもあって、自然と鳥肌が立ってしまうほどのインパクトがある。また、音楽に合わせてテトリミノの落下スピード、コントローラの振動テンポも変わるので、身体も衝動的に動く!それに合わせてブロックを独特の間で置いていく感覚は、もはやリズムゲームそのもの。
しかも、これらの演出をVRを通して体験できるのだ。その迫力たるや、テレビでプレイする以上に”エモい”!ずっとこの映像を見続けたい、感じていたい気持ちになってしまうほどの中毒性がある。基本、固定画面でゲームをプレイする関係からVR特有の酔いを発症する心配も一切なく、長く遊べるのも地味ながら大きな強みだ。
率直に言って、この一連の映像と音楽がシンクロする過程だけでも本作をプレイする価値はあると言ってもいい。PlayStation VR本体にしても、この為に買っても決して後悔はしないとも断言できる。それほどの前代未聞の体験ができるのだ。
なので、この時点で既に興味を持ったのなら、もうこの先の文章を読むのは止めて製品版に突撃いただきたい。可能であれば、VRもセットで楽しんでいただきたい。”エモすぎる”の真価を嫌というほど思い知らされるはずだ。
先の繰り返しになるが、「Journy Mode」に用意されたステージは全部で27種類。結構な数だが、ひとつクリアするのに要する時間は短め。また、どこも「指定された数のライン消す」目的に終始するので、構成としては単調なものになっている。
ただ、そこを個別に用意された映像とグラフィックが補っている。その完成度、美しさ、バリエーション共にこだわりの結晶と言わんばかりの出来で、これをテトリスと絡めたのかと開いた口が塞がらなくなるほど。
数ある映像の中でも、筆者は「炎の儀式」と「人魚の秘密」の2つをおすすめする。前者はテトリス側とシンクロすることによる、どこかの民族の風習に参加している感覚が面白い。光の粒が大勢の人の形を作り出す演出の数々も圧巻だ。
後者は純粋に美しく、何よりもバックで流れる音楽が印象的。実はパッケージ版のジャケットにも描かれている映像だったりする。そこにピックアップされているだけでも、いかに印象深い映像なのかが察せるかもしれない。
また、これらをテトリスとは別にひとつの映像として楽しむ「シアター」も完備。専用のメニューを操作すれば、好きなタイミングの演出と音楽も楽しめる。もちろん、VRにも対応している。主にリラックスしたい時に活用すると効果てきめんなので、VR本体をお持ちであればぜひ、試してみていただきたい。
「Journy Mode」はエンディングを目指す目的でなら、大体2~3時間ほどで到達できる。しかし、本作の全てを遊び尽すとなれば、その10倍以上の時間を要すことになる。というのも、やり込み要素が驚くほど多い。
特に「Effect Modes」が圧巻。このモードでは自由に映像(エフェクト)を選んで、テトリスに挑戦する内容となっている。いわば、映像選択を除けばいつものテトリス……なのだが。150ライン消しに挑戦する「マラソン」、3分間のスコアアタック「ウルトラ」、40ライン消しまでの時間を図る「スプリント」、超高速テトリス「マスター」、延々とテトリスを遊ぶ「コンボ」、指定ブロックを決められた手順で消していく「ターゲット」、特定間隔で決まった場所に棒状のテトリミノが落下してくる「カウントダウン」、増え続ける「ダークテトリミノ」を3分間消し続ける「浄化」、画面が反転したり巨大テトリミノが降るなどのトラブルが発生する「ミステリー」と、なんと9種類に及ぶ遊びが用意されているのだ。
もちろん、それぞれに専用のスコアボードを用意。オンラインにも対応しており、世界中のプレイヤーと得点争いに興じれる。(ちなみに「Journy Mode」にもオンラインランキングは存在)
それもあって、遊び尽すだけでも大変。極めるとなればそれ以上で、「Journy Mode」以上の時間を要することになる。さらに「Journy Mode」にも難易度選択機能があり、それぞれをクリアする別のやり込み要素も用意されている。数も4種類あり、最高難易度「エキスパート」では、常にスリリングな展開が繰り広げられる手ごわさ。
まさにこれ一本あれば、しばらく他のテトリスは必要なくなるほど盛り沢山な内容になっているのだ。とは言え、対戦モードは収録されていない、シングルプレイ特化型なので、そちらへのニーズには応えてくれない。対戦もお求めなら、他のテトリスをどうぞ。
もちろん、テトリスとしての基本的な作りも盤石だ。昨今の「ワールドルール」兼「ガイドライン」に準拠した作りなので、遊び慣れた人であれば、すんなり入っていける。ボタン配置、レスポンスも非常に良好で、ストレスを感じさせる部分は皆無。
一点、演出重視の関係でメインフィールドが遠くにやや小さく表示された状態になっているが、これもスティックで自由に調整可能。「Jouny Mode」限定の「ZONE」もワンボタンで発動する仕組みのに加え、一定時間内に可能な限りラインを消していくという分かりやすいボーナスタイムにまとめられているので、テトリス本編を霞む独自性と存在感もなく、自然に溶け込んでいる。
テトリミノの色が個別に設定されていないのも見所。ステージ(及びエフェクト)ごとに様々なデザインのテトリミノが登場しては、ゲーム本編と演出に華を添える。現在のように色が固定されていない頃のテトリスを知る往年のプレイヤーなら、本作の多彩さには懐かしさを感じてしまうかもしれない。
他に「Effect Modes」では、週末に世界中のプレイヤーが参加し、特定のテトリスでポイントを溜めるイベントが開催されたり、現在、どのテトリスを遊んでいる人が多いのかのトレンドを知れる、一風変わったオンライン要素もある。
特に週末のイベントは、目標達成の度にゲーム内で使える「アバター」を貰える特典もあるので、つい挑戦したくなる楽しさがある。人とは直接繋がっていないけど、共に協力し合っている感覚も唯一無二のものがあるので、一度でもいいので体験してみていただきたい。
つい先日、そのようなオンライン要素を特徴とした運び屋のゲームが出たりしたが。
本作は「CEDEC Awards 2019」のサウンド部門にノミネート、ワシントンポスト紙において数多くの賞を獲得するなど、世界的にも高く評価されているため、本連載でピックアップした作品としてはかなりのメジャーどころかもしれない。そもそも、テトリスの時点でメジャーすぎるが。
ただ、それ抜きにしても本作は稀代の傑作と言わんばかりの逸品で、テトリスを一度でも遊んだことのある人なら、是が非でもプレイするだけの価値がある仕上がりになっている。特にVR時の映像と音楽、そしてテトリスの融合はここでしか味わえない唯一無二の驚きと感動が詰まっていて、言葉では表現しがたい”エモさ”を味わえる。
さながら”エモリス”とも言える本作。発売から1年以上が経過した本作だが、今なお、その独自性は色褪せることなく輝き続けている。VRなしでも遊べる上、新作のテトリスとしても圧倒的なボリュームとやり込み要素が光る仕上がりになっているので、未プレイであればぜひ。新世代型テトリスの底力、とくと見よ!
【ゲーム情報】
タイトル:『テトリス・エフェクト』
発売元・開発元:Enhance, Inc. / 株式会社Monstars / レゾネア
対応ハード:PlayStation 4、PC(Windows)
対応HMD:PlayStation VR、Oculus Rift、HTC VIVE
ジャンル:パズル
価格:4,167円[税抜](パッケージ版)、4,584円[税込](ダウンロード版)、4,180[税込](PC版)
関連リンク:
■商品&購入ページ:PlayStation 4版(PlayStation Store内)
■商品&購入ページ:PC(Windows)版(Epic Gamesストア)
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