日々膨大な数がリリースされているソーシャルゲーム。その大半は定期的に大量のシナリオを必要としているが、膨大な量のテキストは内製や外注など、様々な形で作られている。今回は『マブラヴ オルタネイティヴ ストライク・フロンティア』や『ドラゴンナイト5』など、多数の実績を持つシナリオ制作会社「ストーリィベリー」代表の永田たま氏とパートナーのルイス氏に、どのようにシナリオライターの世界に飛び込んだのかお話を伺った。
(以下敬称略)
■文章を書くのが好きだったので、いつかそういう仕事に就きたいと思っていた
――お二人はなぜシナリオライターになろうと思ったのでしょうか?
永田たま(以下、たま)わたしは元々子供のころから本に囲まれて育ちました。文章を書くのも好きだったので、いつかそういう仕事に就きたいと思っていたのです。
永田ルイス(以下、ルイス) 自分は昔自衛隊で働いていたのですが、体調を崩して退官したんです。その後は一般企業に就職して働いていたのですが、たまさんがシナリオの仕事をこなしきれなくなって「手伝ってくれない?」と頼まれたので書くようになったのが始まりですね。
――ということは、まずはたまさんがどのようにシナリオライターになったのかを伺う方が良さそうですね。
たま そうですね。シナリオを書きたいと思ってはいたのですが、コネとかそういうのもなかった上に大学を中退しているので、名前が通っている大手のゲーム会社に入るのは無理だったんです。
――確かに大手だと大学かゲーム系の専門学校は出ておいた方はいいですね。
たま なので、ソーシャルゲームを展開している会社と付き合いがある派遣会社に登録して、そこから「某ケータイゲームのプラットフォーム会社」に押し込んでもらったのです。
――その会社でシナリオライターとしてのキャリアを始められたのですか?
たま いえ違います(笑)。Excelをちょっと扱えたので、数字を触って表を作ったりするアシスタント業務をコツコツとこなしていました(笑)。そこで1年働いてからGloopsという会社に移ったのですが、そこの上司に「将来的には何をしたいの?」と聞かれたときに「ストーリーを書きたいです」と答えたんです。そうしたら上司が覚えていてくれて、Gloopsで『Wake Up,Girls!』(注1)という作品のゲームを作ろうという話になったとき、私に「やってみたら?」と話を持ってきてくださったんです。
(注1):『Wake Up,Girls!』:2014年に放送された、7人のアイドルが挫折を繰り返しながらも頂点を目指すTVアニメ。続編も放送された。
――その上司さんは素晴らしい方ですね
たま しかも私をマーケティング部署所属のまま、ライターとして開発部門へ送り出してくださったんですよ。そこでシナリオを書き始めたのがライターとしてのキャリアのスタートになります。
――それまで専門的にシナリオを勉強したことは?
たま 書きたいと思っていただけの素人だったので、外注のライター会社さんから上がってきたシナリオを見て、見よう見まねで書いていました。実地で「なるほど。シナリオってこういうふうに書くのか」といろいろ勉強しているうちに、途中からは自分で「ここはこうしたほうがいいのじゃないかな?」と逆提案できるくらいになりました。ただ、残念ながら『Wake Up,Girls!』はすぐにクローズになってしまったのでGloopsを辞めて、とある大手ゲームメーカーさんに転職することになりました。
――なぜ転職しようと思ったのですか?
たま 一度書く仕事をしてしまったら、「どうしても書く仕事を続けたい!」という気持ちが強くなってしまったんです。そこで派遣会社が開催していた「ソーシャルゲームのシナリオはこういう風に作っています」という感じのセミナー兼就職相談会に参加してみました。
――そういうセミナーがあるのですね
たま そのときのセミナーには私が「大好きだった某アイドルゲームのシナリオチーム」のシナリオライターの方が参加していたんです。私は本当にそのシリーズが大好きで、死ぬまでには1回くらい関わってみたいなと思っていたのですが、自分の実力ではまだ無理だと思っていました。でもそのセミナーの最後に質問タイムがあって、そこで「男性向けのシナリオを書くときに、男性の目線と女性の目線、どちらが良いというのはあるでしょうか?」と質問させていただいたんです。それが気に入られたのか、後日面接を設定していただけて、正式にシナリオチームに入れていただくことになったんです。
■個人から企業へ
――そこからどのような流れで起業することになったのでしょうか?
たま そのタイトルには1年ほど関わらせていただいたあと退職しました。そのころ丁度結婚も決まっていたので、再就職するか主婦になるかどうしようかなと思っていたところに、『Wake Up,Girls!』を一緒にやっていた人から『マブラヴ オルタネイティヴ ストライク・フロンティア』のシナリオを書けないか打診があったので引き受けたんです。そうしたら、最初は月に3本だったのが、翌月は6本。その次は12本とどんどん増えていきました(笑)。
ルイス このあたりでご飯は全て出前になって、家も片付かなくなっていました(笑)。
たま 月20本になったときにルイスさんに「ごめん、有給使って明日休んで、締め切り手伝ってくれない?」と頼むようになりました(笑)。
ルイス たまさんが「締切に間に合わない」と泣くので仕方なく手伝うようになりました(笑)。特に『ストライク・フロンティア』は軍事考証が必要な作品だったので、自分の元自衛官としての知識と経験が役に立ちました。最初は他にも何人かのライターさんが参加していた作品だったのですが、版元のチェックに耐えうるクオリティのシナリオを書けるのがたまさんと自分の二人だけだったようで、いつの間にか専属のようになっていました(笑)。
たま 他にもいろいろな作品のシナリオの仕事もやらせていただくようになったので、税金の問題もあってきちんと会社化することにしました。
――主な起業理由は税金なんですね(笑)
たま 税理士さんに相談したら、「このままだと収入の55%を税金で持っていかれる」と言われたんですよ(笑)。どうしたらいいのかと聞いたら「会社にして、色々な費用を経費で落とす形にしたほうが良い」とアドバイスをいただいたんです(笑)。おかげでちょっと高い本とかも躊躇せずに買えるようになりました(笑)。
ルイス 経費って言ったって誰かからお金もらえるわけじゃないからね(笑)。でも確かに、経費ってことにすれば買いやすいものはありますね(笑)。
――量の面でもお金の面でも個人の仕事の領域は超えてしまったのですね。
たま 超えちゃいましたね。『ストライク・フロンティア』以外にもいろいろな作品のシナリオを手掛けるようになったので、人を増やしました。最初、2~3人で回せていたのが、3~4人になる。そうすると4人目はバッファのような存在になって、仕事があったりなかったりするのです。でも4人目にも仕事をコンスタントに振りたいと思ってさらに仕事を受けると、必要な人数が4~5人になって、5人目が同じようにバッファになってしまうのです。そこでまた仕事を増やすということを繰り返している内に、さらに仕事も人数も膨れ上がりました(笑)。
――起業してよかったことや楽しかったことはありますか?
たま 自宅が職場なので通勤しなくていいことでしょうか(笑)。
ルイス 通勤しなくていいっていうのは何よりの利点ですよね(笑)。それとやはり個人よりも会社のほうが信用を得やすいです。
――逆に苦しいことなどは?
たま 仕事がいつなくなるかわからないことです。あと、納品しても中々お金をもらえないこともあるので困りますね。
ルイス クライアントの様々な事情で振り回されるのはやはりつらいです。たまさんは社員や外注のライターさんを背負って、頑張って耐えていると思います。
たま それと、私たちは歳を取っていきますが、ゲームのユーザーは若い人が入れ代わり立ち代わり入ってきます。書く側の感じる面白さと若い世代が面白いと感じることは、少しずつ離れていくんですよ。このギャップを埋めるためにはどんどん新しいものをインプットしていかなきゃいけない。でも、仕事に追われるとインプットする時間が無いので、睡眠時間を削っていろいろな物を観たり読んだり遊んだりするのが大変です。
ルイス いつまでも若者ではいられないので、そこは努力で埋めるしかないですね(笑)。
――シナリオライターとして成功する秘訣と言うのは何だと思いますか?
たま 私自身、最短距離でシナリオライターになれたわけではないのですが、自分なりの潜り込み口を探して、チャンスにしがみついてきたのが今もシナリオライターとして生きていられる理由だと思います。人に「降りてきた釣り針を死んでも離さないのは君の才能の一つでしょう」と言われたこともあります。私が『Wake Up,Girls!』でチャンスを掴んだ時は、「1日24時間『Wake Up,Girls!』の世界に浸かろう!」と努力しました。このチャンスをつかまなかったら私は終わると覚悟していました。会社に住めるなら住みたいくらいの熱量をぶつけていたと思います。
ルイス ただ、気を付けなければいけないのは、シナリオライターは小説家ではないということですね。
たま そう。シナリオライターは自分の世界を表現するのではなくて、クライアントとユーザーと、IPがある場合は原作者が求めている世界を表現する仕事です。そこにどれだけ自分が伝えたいことやりたいことを乗せられるかというのはあくまで余力の部分であって、根本は求められたものを書きあげることにあります。昔シナリオライターを募集した時に「お金はいらないからシナリオライターになりたいです!」と、熱意と情熱と夢を語ってくれた若い子が何人かいたので採用してみたのですが、誰一人残りませんでした。
――なぜ誰も残らなかったのでしょうか?
ルイス その子たちには「あなたが書いているのは小説なので、ゲームに即した形に直してください」「この書き方だと何が起きているのか伝わらないから、こういう風に直してください」と指導したんです。そうしたら、かなりショックを受けたようでした。
――自分の文を修正されるとプライドを傷つけられたように捉える方もいますね
たま そうなんです。私はとにかく物を書く仕事になにがなんでも就きたかったので、プライドや自分の書きたい物とかどうでもいいから、書く仕事をください。というのがスタートだったんです。文章を書く仕事をするのを「夢」だと考えている人には、夢を叶えてお金をもらい、更に自分のプライドを満足させるというのは生半可な道ではないことを知ってほしいです。
ルイス 物書きではなくても、社会人としてすでに仕事をした経験がある人の方が残りますね。
たま「仕事をしてお金をもらう」重みがわかっている人の方がやっぱり残ります。「特別な何か」になりたい。「シナリオライター」と名乗ってみたいなどと漠然と考えている人には厳しい仕事です。
――この話を読んでもなお、本気でシナリオライターになりたいと考えている人がいたとしたら、どのようなアドバイスを送りますか?
たま シナリオを書くときは、クライアントから送られてきた設定がまだしっかりしていない状態で手を付けることがあります。そういうときは仮にツンデレキャラだったとしたら、設定では何も語られていなかったとしても、過去には何があったのかというのを常に考えながら書いています。こういったキャラクターの裏を考えていく力と言うのは、書く仕事に就いていなくても、日常の体験や勉強で磨くことが出来ます。気づきの力、見つける力というのは書く力に繋がっていくので、自分が今やっている仕事の中でも気づきを増やしていくといいんじゃないかと思います。
ルイス 自分も自衛隊時代に部隊計画を作って部隊長たちに説明しているときの経験が『ストライク・フロンティア』のときにかなり役に立ちました。どんな経験がシナリオに生きるのかは本当にわからないものです。
――最後に、今後どのような仕事をしていきたいのかお聞かせください
たま うちの会社にはルイスさんが持っている実体験に基づく軍事知識と言う強みがあるので、これを全面的に生かした本格軍事ミステリーなどをやってみたいですね。私自身は心理描写方面に特化した書き込みが得意なので、ノベル系をやってみたいと思っています。
ルイス 僕としては世界設定や世界観、キャラクター設定を一からやらせてもらえるような仕事が出来ればと思っています。
(インタビュー・写真・記事:早川清一朗)
(C) 2016 a^ge / ixtl / DMM GAMES
会社情報:合同会社ストーリィベリー
アクセス:
住所 神奈川県横須賀市二葉
自宅兼事務所のため、住所非公開
ご遠方の方:Skype等のツールを使ったお打ち合わせをさせていただきます
取材協力:子安の里 まりん
今回、取材に使わせていただいたのが横須賀の「子安の里 まりん」。
ペットOKのカフェレストランで、約12畳2区画のプライベート空間でリードを外してペットと食事が出来るプライベートドッグスペースがあります(有料)。
高地にあるため眼下に夏は深緑、秋は紅葉が楽しめます。料理と風景をペットと一緒に楽しみたい方には是非お勧めです。
アクセス:
〒240-0105
横須賀市秋谷3621-2
TEL 046-857-6545
営業時間
月~金 11:30~17:00
土・日・祝日 11:00~17:00