エビ、カニ、ヤドカリやサンショウウオ、イモリ、カエル等のうんちくWiki「Decapedia」の中の人が身近な生き物について抜粋して紹介する特集コーナー第9回です。新型コロナウイルス感染症拡大が終息の気配を見せてきましたがもうひと頑張り。油断せず乗り切りましょう! ということで、今回は緊急事態宣言が解除されているであろう夏場になると磯に姿を見せるカニ。「身近か?」と聞かれると微妙ですが、その美味しそうな名前に反して猛毒があることで有名な「スベスベマンジュウガニ(Atergatis floridus)」を紹介します。
スベスベマンジュウガニはインド-西太平洋に広く分布し、日本では房総以南の太平洋側で見られます。
名前の通りスベスベでマンジュウの様に丸いカニ。体色は褐色~暗紫色。鉗脚の付け根や歩脚や甲外縁が見るからに毒々しいシアン色を呈していることがあり、背中にも独特の斑紋が入ります。鉗脚の指節は黒。他のオウギガニ科のカニによく見られると同様、黒爪です。
外洋に面した磯の潮間帯下部から潮下帯にかけて、入り組んだ岩や石の隙間に棲息しています。潮が引いた陸地でもウロウロしている同科のオウギガニ(Leptodius exaratus)に比べ、スベスベマンジュウガニは警戒心が強く陸上に上がることはほとんどありません。動きも素早いため、岩礁の磯で大量に蠢くオウギガニ科のカニの中にあって一際体が大きくよく目立つにも関わらず、足音を忍ばせて近づかないとなかなか観察することはできません。
ただ、生息密度はそれほど高くはないものの少ないという訳でもなく、注意深く探せば発見は容易です。
スベスベマンジュウというユニークな和名と、食べれば死に至る猛毒を持つことで、あまりにも有名なカニで、磯の危険生物に列挙されていたりしますが、食べなければ特に危険なことはなく、また、見るからにオドロオドロしい色合いや模様から、誰も食べようと思わない様で、たまに被害が報告される同科のウモレオウギガニ(Zosimus aeneus)とは違い、我が国では被害者は出ていません。(ウモレオウギガニも食べたくなる様な外見ではないのですが・・・。)
鉗脚の力が強く、しかも大きいため、挟まれるとケガをする恐れはありますが、臆病なカニなので、素手で弄んだりしない限りは挟まれることもありません。
磯で遭遇する可能性のある危険生物の中で、軽く触れただけで病院送り必至のイラモや、刺されると長期通院が必要になることもあるガンガゼ、噛まれると死に至る可能性もあるヒョウモンダコやオオマルモンダコ等とスベスベマンジュウガニを同列にするのは行き過ぎだと思います。
食性は肉食性が強く、二枚貝や巻貝、海綿、その他の付着生物等を、強力な鉗脚で岩肌から引き剥がして食べています。
温帯域ではヤツデヒトデと同所的に見られることが多いので、二枚貝や巻貝は特に好んで食べている様です。写真の個体も巻貝を岩から引き剥がそうと暴れている瞬間を撮ったもので、この習性から考えると、恐らくはムシロガイ科の巻貝等が持つテトロドトキシンを生物濃縮することにより、毒を獲得しているのではないかと思います。
従って、棲息環境によっては無毒な場合があるかもしれず、また養殖によって“無毒のスベスベマンジュウガニ”を作出することは可能だと思われますが、食べて美味いとも思えないので、わざわざ食べない方が無難でしょう。
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有毒のカニとして有名ですが、フグなどとは違い内臓には毒はなく、外骨格や脚部の筋肉に含まれます。毒の種類はテトロドトキシン(細菌由来とされるフグ毒で、ハナムシロガイ等の巻貝が体内生成)やサキシトキシン(渦鞭毛藻由来の麻痺性貝毒)など複数が知られていますが、このカニの悪食ぶりから考えるとうなずけます。
写真はヤツデヒトデそのものを食べているスベスベマンジュウガニ。身ではなく内臓を食べている様です。
特にヒトデを好んで食べる訳でもなさそうですが、こういった個体は夏季の磯では頻繁に見かけます。筆者の想像に過ぎませんが、この時季はアカモク等の磯の海藻類が乏しくなり、それに従って好物とする貝類を捕食できる機会が減るためヒトデを捕食するのではないかと思います。
スベスベマンジュウガニとヤツデヒトデは、ほぼ同じような環境に棲み、また食性もほぼ同様なので、スベスベマンジュウガニの好物を捕食したヒトデの内臓を食べるのは手っ取り早い食事方法なのかもしれません。
スベスベマンジュウガニの飼育は容易で、海水魚が飼えるレベルのマリンタンクで長期飼育が可能です。餌はスーパー等で売っている活けアサリを冷凍しておき、時々与えるだけで大丈夫です。ただ、大きく力強く、また岩の隙間に潜む習性をもつため、せっかく組んだライブロックは跡形もなく崩されますので、リーフタンクでの飼育はオススメしません。
水槽は60cm以上のものをオススメします。肉食の大食漢なので、それなりのろ過装置が必要になります。
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