本連載30回で紹介した革新的FPSにして名作『Portal(ポータル)』。
パソコン(PC)、スマートフォン・タブレット向けに配信されている橋建設シミュレーションゲーム(コンストラクションゲーム)の『Bridge Constructor(ブリッジコンストラクター)』。
そんな2作が一緒になったら、どんなゲームになるのか?
今回はその”もしも”を実現した1本をピックアップする。
題して『Bridge Constructor Portal(ブリッジコンストラクターポータル)』。
そこ、そのまんまじゃないかとか言わない。
焼却炉に落とされちゃいますよ。
物騒なことを書き殴ってしまったが、それはさておき。
本作はValve制作の『Portal(ポータル)』との公式コラボレーション作品で、2017年12月20日にPC(Windows、Mac、Linux)、スマートフォン・タブレット(iOS、Android)向けにリリース。その1年後にはNintendo Switch、PlayStation 4、Xbox Oneの家庭用ゲーム機にも移植された。
日本ではNintendo Switch、PlayStation 4版が2018年9月27日、レイニーフロッグよりリリース。Xbox One版に関してはその約1ヶ月後、10月18日にHeadup Gamesからリリースされている。
舞台となるのはハイテク企業「Aperture Science(アパチャーサイエンス)」。主人公は同社の従業員として採用されるため、面接試験に挑んだ。
しかし、返答を間違ったため、焼却炉に落とされて消し炭にされるのでした
♪ちゃんちゃん
……って、話を終わらせてどうする。
とにもかくにも、プレイヤーはそんな素敵な面接を乗り越えて「Aperture Science」の新米従業員としての採用が決定。やったぜ、新社会人。
そして、同社の「エンリッチメントセンター」なる施設内の「テストルーム」にて、橋を作る業務に従事していくいうのが主なストーリーだ。
ゲーム内容は『Bridge Constructor』とほぼ一緒。橋を造り、「Aperture Science」の新米従業員たち「ベンディー」が乗る車両を出口へと導くだけだ。もう少し掘り下げると、まず、出口へと繋がる場所に様々なパーツを置いたり、組み合わせるなりして橋を建設していく。そうして橋が完成したら、画面下に表示されたメニューで「操縦」のモードに切り替え、ベンディーたちの乗る試験車両を発進させる。そのまま車両が出口に辿り着けばクリア。次のステージ(テストルーム)へ行けるようになる、という感じだ。
まさにステージクリア型アクションパズルの王道を地で行く構成である。
ただ、車両を1台、出口へ導けばそれで終わりとならず、新たに「車列」なるモードが解禁。複数の車両を一斉発進させ、ゴールまで辿り着かせることになる。全車が無事、ゴールまで到着できればパーフェクトクリアだ。
1台目が成功したのだし、何台走らせた所で結果は同じだろうと思うかもしれない。ところがぎっちょん。橋に交差する地点があったりすれば、そこで衝突事故が起きて車両が停止するトラブルが起きる。また、橋は補強の仕方によって耐久力が変わる。仮に補強が甘ければ、複数台が上に乗ったと同時に橋が崩落し、奈落の底行き。殉職確定だ。
そのため、車間距離を開けるよう形を調節したり、骨組みを増やしたり、ケーブルを繋げるなどの工夫が必須。このようにやることは単純ながら、結構頭を使う必要があり、印象とは裏腹に歯応え抜群のゲームに仕上がっている。
そして、本作にはここに『Portal』の要素が追加されている。『Portal』と言えばもちろん「ポータル」だ。なんだか文章的に紛らわしくなってしまっているが、要は「次元の穴」。
車両が入れば、色に応じたもうひとつから”スポッ”と現れるものだ。
本家『Portal』では、「ポータルガン」と呼ばれる特殊な武器を用いて壁や床に「ポータル」を開ける形だった。だが、本作はあらかじめ開けたものが設置されているため、そのようなことは一切要求されない。基本、橋の建設に集中すればいい。
なぜなら、本作は『Bridge Constructor』だからだ。
だが、”一方のポータルに入ると別のポータルから現れる”、”入った瞬間の物理法則の影響が持続される”仕組みは本家を踏襲。
なので、その効果を踏まえた車両の導き方、橋の造り方を考えることが求められる。さらに出てくるのは「ポータル」だけではない。車両に害を与える自動小銃こと「タレット」、加速や反発効果を与える「ゲル」などの仕掛けも登場し、それを踏まえた橋の造り方と導き方も試される。
そして『Portal』のヒロイン的存在「コンパニオンキューブ」も当然のように出てくる。その使い方、落ち方を踏まえて橋を造らなければ、車両が大破の憂き目に遭うだけだ。
そんな様々な可能性を頭の中で想像しては、出口への道順を探っていく。まさに『Portal』。「ポータルガン」こそないが、あのパズル性はキッチリ再現されており、それが『Bridge Constructor』というゲームの中で絶妙なバランスでコラボレーションしている。まさに相性抜群とも言わんばかりに混ぜ合わさったゲームに仕上がっているのだ。
ただ、『Bridge Constructor』のリソース(資源)管理の要素は『Portal』の要素との兼ね合いで排除されている。なので、ゲーム的にはパズルの色彩が強く、他の『Bridge Constructor』をプレイしたことのある経験者で、旧作のような内容を期待すると肩透かしを喰らうかもしれない。
本連載8回でピックアップした『X-Morph Defence(エックスモーフ:ディフェンス)』と被る表現だが、実際に『Bridge Constructor』と『Portal』、双方の最も面白い所が絶妙にミックスされた、新感覚のパズルゲームを実現させている。
特に秀逸なのが、システム上の取捨選択の上手さ。『Bridge Constructor』なら資源(リソース)、『Portal』なら「ポータルガン」も特色のひとつだが、そのまま採用すると窮屈なゲームになりかねないことから、どれも削ぎ落とされている。
厳密に言うと資源は存在するのだが、本作ではスコアに当たる存在で、橋造りに制限を与えることはない。なので、自由に好きな形の橋を造れ、幅広い解法を考えられる。何より、そのようにでもしないと、「ポータル」が引き起こす次元現象の数々に対応しきれない。仮に飛び出した先の橋の補強を資源の制約で緩くしなければならないとでもなると……。
そのような採用することのデメリットを踏まえて構成されていて、『Bridge Constructor』であり『Portal』でもある、独特の遊び心地を演出しているのだ。そして、双方が不必要な要素を取り除いているからこそ、見事に融合し合っている。
そもそも、『Portal』の特徴からして、何かを導くタイプのゲームとの相性の良さは察せるのだが、本作は橋造りというより面白味を増しそうな要素をパートナーにしているのもあって、その辺が際立っている。ゆえに遊べばこう感じてしまうはずだ。
「ずっと一緒になるべきだった2人が、遂に結ばれた。」……と。
おいこら、それ完全に本連載8回の流用じゃないか。
いや、また使いたくなってしまうほど混ざり具合が絶妙なんです、これ。
「ポータル」が引き起こす次元現象に橋の骨組みに角度、設置位置など、非常に多くの試行錯誤必須の事柄があるだけに、どのステージこと「テストルーム」で繰り広げられるパズルはやり応え抜群。そして、あり得ない発想をプレイヤーに求めてくる。
ステージ全体の見た目も「ポータル」という、不可能を可能にする穴のおかげもあり、いびつさ満点。特に応用編とも言える中盤以降は、構造を見た瞬間、「なんじゃこれぇ……」と開いた口が塞がらなくなってしまうこと確実。しかし、諸々の法則や車両の流れをイメージすれば、大体の道順は見えてくる設計。その無茶と適切が混在した作り込みの数々には、制作側のセンスを感じること確実。
総数も全60個と、パズルゲームにしては若干少なく見えるが、個々で考える事柄の多さから「これで十分」と思ってしまう物量。これでもっとあったら、脳味噌の危険が危ないと感じる程度に満足度申し分なしのボリュームになっている。
……とか言ってたら、なんということでしょう!
2020年2月6日、有料ダウンロードコンテンツ「ポータルプロフィシェンシー」が配信!
30の新たなテストルームが追加され、合計90個になってしまいました!
しかもこの30個のテストルームでは、新たに「ポータル設置」が追加!
「Aperture Science」に”手加減”の3文字は無かった!
正式なコラボレーション作品だけに、『Portal』由来のネタも盛り沢山。
それでいて、経験者のツボを突くものばかり。
まず、本作でプレイヤーの案内役を務めるのが、同作でプレイヤーを煽りに煽り倒した人工知能「GLaDOS(Genetic Lifeform and Disk Operating System:グラドス)」であることからして、経験者ならば「そう、それそれ」となってしまうこと間違いなし。しかも、台詞は本作のために書き下ろされた独自のものであるのに加え、『Portal』同様にフルボイス!(※英語)声優も『Portal』と同じキャストを起用。そして相も変わらず、あらゆる場面でプレイヤーを煽りに煽る!
これだけでも、経験者ならさすが『Portal』とのコラボ作と納得してしまうはず。
そのほかの車列に害を与える脅威ながら、可愛らしい声で喋る「タレット」、様々な場面で活躍する「コンパニオンキューブ」も登場するので、色んな意味で悶えてしまうだろう。
あ、ケーキもありますよ。
『Portal』と言えば、「GLaDOS」の煽りに象徴されるブラックユーモアの数々。
この点も本作は徹底して描き切っている。
そもそも、オープニングからして黒い。新米従業員として採用されるための役員面接が実施され、幾つかの質問に回答することになるのだが、間違えれば受けているキャラクター(ベンディー)が”ボッシュート”の名の下に焼却処理されてしまう。しかも、合格するまで、延々とベンディーたちが犠牲になり続けるのだ。ヤバい。表現的にはピクトグラムのようなベンディーが消えていくだけなので、残酷さ皆無だが、想像力を働かせると……。
また、本作は車両を出口へと導くのが各ステージのクリア条件である。
裏を返せば、車両に乗ったベンディーを出口へ導く必要はない。
なので、車両移動中に天井に衝突して落下しようが、横転して放り投げだされようとも、車両さえ無事であれば問題ない。社員は幾らでも”代わりが居るのだから。”
思わずゾッとしたかもしれないが、これも本作の魅力。
これがハイテク企業「Aperture Science」の社風なのだ。
……ヤベェよ。
操作周りも基本、橋の設置、メニュー切り替えなどの最小限の手順でプレイするので複雑さは皆無で取っ付きやすい。スマートフォン・タブレット版ならタッチ&スワイプ、PC版ならマウスのポイント&クリック、時々ドラッグとより直感的な操作でプレイでき、思うがまま橋造りの楽しさと次元現象の数々を堪能できる。
また、PC版は自由にステージを作成できる「レベルエディター」も搭載されており、「Steam Workshop」の機能を用い、世界中のプレイヤーと共有し合って楽しむ遊び方が用意されているのも大きなセールスポイントだ。
他にもストーリーの不穏さと黒さを象徴するテキスト、ベンディーたちの可愛らしい動きが印象的なデモシーンと言った魅力が満載。ポータルの次元現象を考慮して橋を造る関係で、試行錯誤に要する時間が極端に長くなってしまうことがあったり、一部、文字通りのゴリ押しが通用してしまう場面に象徴される難易度周りの粗さなど、至らない箇所も散見されたりするが、2つの異なるゲームの魅力が絶妙に混ざり合ったシステム周りの巧みさは秀逸で、良作以上の出来と言い切れる内容に仕上がっている。
パズルゲーム好きはもちろん、オリジナルの『Bridge Constructor』と『Portal』が好きな人(特に後者が好きな人)はぜひ、プレイいただきたい新感覚の橋造りパズルゲームだ。ハイテク企業で謎めいた業務に従事し、ケーキをもらっちゃおう。
なお、従業員の命の保証は皆無ですので、あらかじめご了承くださいませ。
そして、締めにとても重要なことを書いて締め括ります。
橋はウソなんです!
【ゲーム情報】
タイトル:『Bridge Constructor Portal(ブリッジコンストラクターポータル)』
発売元・開発元:ClockStone / Headup Games / Whisper Games / レイニーフロッグ
対応ハード:PC(Windows、Mac、Linux)、iOS、Android、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One
ジャンル:パズルシミュレーション
価格:600円[税込](Android版)、610円[税込](iOS版)、1,010円[税込](PC版)、1,150円[税込](Xbox One版)、1,500円[税込](Nintendo Switch版)、1,528円[税込](PlayStation 4版)
関連リンク:
■マイニンテンドーストア:商品&購入ページ(Nintendo Switch)
■商品&購入ページ:PlayStation 4版(PlayStation Store内)
■商品&購入ページ:Xbox One版(Microsoft Store内)
Portal © 2007 Valve Corporation. Bridge Constructor is a registered Trademark of Headup Games GmbH & Co. KG. All rights reserved. Licensed to and published by Rainy Frog LLC.