過去最多の来場者数となった東京ゲームショウ2018にて出展されていたインディーゲームの、ライター小林白菜によるプレイレポートの後編です。
過去最多の来場者数となった東京ゲームショウ2018にて出展されていたインディーゲームの、ライター小林白菜によるプレイレポートの後編です。
□「東京ゲームショウ」TGS2018 インディーゲームプレイレポート【前編】
注目インディーゲーム③
『グノーシア』
後編でまずご紹介するのは人狼ゲームを題材にした議論型RPG『グノーシア』。
開発は『メゾン・ド・魔王』で知られるプチデポット。『メゾン・ド・魔王』は魔王の眷属たちが住むアパートを管理する経営シミュレーションで、ポップで可愛らしいグラフィックが特徴でしたが、『グノーシア』はスペースSFな世界観。宇宙船の乗組員である主人公が、人間に化けて他の人間を襲う未知の敵、”グノーシア”と対峙するというストーリーです。
「人狼ゲーム」が題材で「時間ループもの」でもある本作。と来ればケムコのノベルゲーム『レイジングループ』(こちらも大変な傑作です)を連想する方も少なくないかと思いますが、両方プレイしてみれば両者が全く異なる地点を目指しているゲームであることが分かります。
『グノーシア』は前述の通りRPG。プレイを開始すると、まず主人公の名前や性別(汎性という男でも女でもない性別を選ぶことも可能)を決めると共に能力値にポイントを振り分けることになります。
宇宙船の中で目覚め、女性キャラクターのセツから状況説明を受ける主人公。人間に化けているグノーシアは時空転移の際に人間に危害を加えるため、その間はコールドスリープさせる必要があるとのこと。
全乗組員の人となりが分かるイベントが終わると、「会議パート」が始まります。このパートでは乗組員全員で誰がグノーシアなのかを話し合い、最後に多数決で最も多くの評を集めた人物がコールドスリープさせられます。つまり「会議パート = 人狼ゲーム」、「グノーシア = 人狼」という訳です。
会議パートでは他の乗組員が行っている議論に口を挟むことが可能。適切なタイミングで「疑う」、「かばう」などのコマンドを選択して、誰に不信感を頂き、誰を信頼しているのか、意思表示ができます。
本作のNPC(主人公以外の宇宙船乗組員)はAIで制御されていて、意思表示の方法によって主人公や他のNPCに抱く感情が変化するとのこと。NPCの「誰をグノーシアだと考えるか」という判断もプレイヤーの意思表示次第で変化していきます。しかしあまりやかましく口を挟み過ぎると自分が怪しまれますし、全く口を挟まないと議論に参加できず、望まない人物に嫌疑が掛けられる恐れがあります。見極めが肝心です。
コールドスリープさせた相手が人間だった場合、野放しとなったグノーシアは残りの人間のうちの誰かの命を奪います。会議パートとコールドスリープを繰り返し、乗組員の過半数がグノーシアになれば人間側の敗北、すべてのグノーシアをコールドスリープにすれば人間側の勝利となり、次のループに挑むことになるーーというのが基本的なゲームの流れ。
複数回ループを繰り返していくと、様々な新要素が解禁されていきました。
乗組員には新たな顔ぶれが増え、会議パートの合間には移動パートが追加されます。ここでは気になるキャラクターとコミュニケーションを図り、好感度を上げたり、怪しい人物に探りを入れたりできるようです。
また、人間側が有利となる役割も徐々に追加される模様。プレイした範囲では「エンジニア」という役割が追加され、主人公がこれに選ばれたときは、コールドスリープ時に乗組員のうちひとりを、人間かグノーシアか調べることができるようになりました。『レイジングループ』で言うところの「カラス」という訳です。NPCが自分がエンジニアだと偽って語る局面もあり、このときプレイヤーは自分が本当のエンジニアだと名乗るか、あえて黙っておくか選択を迫られます。
体験版のプレイはこの辺りまででしたが、その後もループ毎に新たな乗組員や新要素が追加され、プレイヤーが会議中に選べるコマンドも増えます。引き継いだ経験値で能力値を上げることもできるようになるとのこと。「カリスマ」、「演技力」といった能力値を上げることで、各コマンドを選んだ際のNPCのAIへの影響力は大きくなります。
序盤では議論の大局を変える力をプレイヤーは持っていませんでしたが、AIとの騙し騙されの心理戦がどんどん高度化する中、彼らの意志を意のままに操れるようになる自分を想像するとワクワクが止まりませんでした。
ここまで来れば本作がどういったゲームなのか、想像が付くと思います。『グノーシア』はストーリーよりもまるで本物の人間との心理戦のようなAIとの読み合いに重きを置いたゲーム。成長要素によってどんどん高度な駆け引きが可能となり、毎回異なる配役に対処していく楽しさはローグライクのジャンルと通じるものもあります。
AIとのコミュニケーションや駆け引きが楽しめるビデオゲームは数あれど、議論による騙し合いを中心に据え、すでに用意されたシナリオの流れではなく自由な議論そのものでストーリーが展開されていく作品はなかったように思います。
ちなみにシナリオに力を入れていない訳では決してなく、グノーシアという存在やループが起きる理由についてはゲームを進めていくことで明らかになっていくようです。
全ての要素が解禁されるとグノーシアの数や自分の役割を自由に設定し、自らがグノーシアとなって他のNPCと敵対することも可能になるそうで、ワクワクは尽きません(エディットモード扱いなのか、ストーリー上でそれが可能になるのかは不明)
プチデポットのブースで印象的だったのはブースに1冊のノートが置かれており、試遊した人に本作の感想や要望を書き込んで欲しいと積極的に促していたこと。TGSから帰ったらすぐに問題点を洗い出し、修正作業に取り掛かるということでした。製品版は僕からお伝えした意見が反映されているかも含め非常に楽しみ。
『グノーシア』はPlayStation Vitaのダウンロード専用タイトルとして今冬リリース予定。無事Vita版をリリースしたのち、他機種への移植作業も前向きに検討中とのことなので、こちらも期待しましょう。
注目インディーゲーム④
『RotoRing』
本作はGregory Kogos氏(@aronegal)が手掛けたゲーム。コントローラも出力装置も専用のものが使用されているためインディーゲームコーナーでも特に異彩を放っていて、しかも非常に完成度の高い作品でした。
LEDが円状に並んだ出力装置に目を奪われますが、コントローラに注目してみると、そこにあるのは何の変哲もないボタンと、ダイヤルのような”つまみ”だけ。
ゲームが始まると、LEDの中にひとつだけ色の違うものがあり、ダイヤルを回すとこの色違いのLEDの位置が変わっていきます。そう、この色違いの光こそが”自機”。続いてボタンを押してみると、自機が移動する円を「外側の大きな円」と「内側の小さな円」で切り替えられることが分かりました。
さらによく見ると、ひとつだけ光っていないLEDがあり、ここまで自機を移動させてみるとステージクリア! すべてのLEDが眩く光ってプレイヤーを祝福しつつ、次のステージが始まります。
序盤数ステージはサクサク進んでいきましたが、しばらくすると自機が接触するとアウトとなる”赤い光”が登場。また、自機とゴールが同じ円に存在するときは自機が近づいた分だけゴールが逃げていくステージなどが登場し、それらが組み合わさり、さらに赤い光が高速で移動するようになってくると、反射神経と思考力をフル回転させる必要があり、気づけば超エキサイティングなゲームプレイとなっていました。
お題の難易度の変化も実に心地よいもので、最後のステージをクリアし、プレイ時間が表示されたときにはより短時間でのクリアを目指してずっと遊んでいたい衝動に駆られました。
このゲームの興奮は実際に触れてみないと味わえないものです。特性上、自宅のゲーム機やPCで遊べるゲームではありませんが、本作をプレイできる機会があれば是非ともプレイすることを強くおすすめします。
ゲーム機や既存のコントローラのためにつくられたゲームでは味わえないプリミティブな興奮が『RotoRing』にはあるのです。
いかがだったでしょうか?
今回は僕が今年の東京ゲームショウでプレイできたゲームを紹介しましたが、もちろんプレイしそびれた楽しそうなゲームも山ほどありました。ずっと楽しみにしてきた大作タイトルをプレイするのももちろんわくわくする体験ですが、ちょっと隣のホールにも足を運んでみて、まだ知らないゲームたちの楽しさを味わうのも、忘れられないゲームショウになるはずです。来年以降参加しようとお考えの方は検討してみてはいかがでしょう?