大泉洋×小池栄子―――その組み合わせをきいただけで心躍る人も多いはず。人気・実力共に日本映画界を代表する二人が『グッドバイ～嘘からはじまる人生喜劇～』で「嘘（ニセ）夫婦」としてガッツリタッグを組む。原作は『人間失格』があまりにも有名で印象的なあの太宰治が、未完ながら晩年制作していたというまさかの“コメディ”・・・驚かずにはいられない。映画化のきっかけは、小池が同役で主演をつとめ大絶賛された舞台だ。満を持し生まれた本作に、太宰もきっとあの世で捧腹絶倒！ 戦後日本の激変期を生きた人々の愛とパワーを思う存分あびることができる感動作だ。

大泉演じる田島周二は、文芸雑誌の編集長で、何人もの愛人を抱えるモテ男。絶世の美女を嘘（ニセ）女房にしたてあげ、青森で暮らす妻子が気づく前に愛人たちとの関係を清算しようと画策する。普通に別れを切り出せばいいものを、それができない。愛人達とズルズル関係を続ける優柔不断な田島の魅力の一つを「寂しいといえばずっと傍にいてくれた・・・。」愛人の一人がうっとりした表情で呟く。

女達が皆、田島に溺れているのかというとそうでもない。田島をめぐりひと悶着ありそうだと察すると、未練なくあっさりと手放してしまえる者もいるのが可笑しい。ようやく二枚目の役がやってきたと思ったのにヘンタイじゃないか！ そう嘆く大泉の言葉通り、私たち観客の期待を裏切るどころか何倍にも膨らませて見せてくれる。大泉洋にしかできない愛されキャラ、かつ超ハマり役だろう。

小池演じる永井キヌ子は、天涯孤独の身。闇市で担ぎ屋として働き、女だからと下にみる男達からむしろ余分にお金をふんだくるほど腕っぷしが強い。泥だらけの顔をぬぐうこともなく、大盛りご飯を掻きこみカラス声でガハハと豪快に笑うのが見ていて気持ちいい。一方で、水場で身支度を整えた姿とのギャップには思わず、ハッとさせられる。

普段から面識があった田島でも、同一人物だとは信じがたいほどの美しさ。きれいに化粧をし素敵な洋服に身を包んで映画館へ行くキヌ子は人生を謳歌している。身一つで生きていかざるを得ない境遇を嘆くことなく、生きるために必要なお金を自分の力で稼ぎそして使う。容姿だけでなくキヌ子の心の強さも魅力的だ。田島と、嘘(ニセ)女房を引き受けたキヌ子が連れだって挨拶にやってくるのを見て、愛人達が口をそろえていう言葉に彼女の生きざまが表れる。

田島とキヌ子はもちろん、田島の妻や個性的な愛人達、同僚などなど、登場人物一人ひとりの人生を描いたスピンオフ作品があれば観てみたいと思うほど、どの人物も私達を魅了する。中でも松重豊が演じる、田島の友人であり文士の連行が興味深い。田島の協力者であったはずの連行がまさかの裏切りを？！ 堂々と悪びれない様子が、田島とは別の意味で憎めない存在だ。連行の裏切りは悲しいどころかむしろ心をホッコリと温める。

本作から、戦後も現代も・・・いつの時代も変わらない“自分の人生を生きる”ことへの熱いメッセージを受け取った。大切なものは、自分で選びつかみ取る。そうすることにより他の誰でもない、自分の人生における幸せが見えてくるに違いない。

それを象徴するかのようなある場面が、目に焼き付いている。純白の衣装をかなぐり捨てたキヌ子が、よく通る大声で田島を呼び、駆け寄る。映画を観終えた時、驚くほど心が満たされた。このゆっくりと染み渡るような幸福感はしばらく続きそうだ。

『グッドバイ～嘘からはじまる人生喜劇～』

出演：大泉　洋　　小池栄子

水川あさみ　橋本　愛　緒川たまき　木村多江

皆川猿時　田中要次　池谷のぶえ　犬山イヌコ　水澤紳吾／戸田恵子・濱田　岳／松重　豊

監督：成島出　

原作：ケラリーノ・サンドロヴィッチ（太宰 治「グッド・バイ」より）

音楽：安川午朗　脚本：奥寺佐渡子 

製作：木下グループ　配給：キノフィルムズ　制作プロダクション：キノフィルムズ　松竹撮影所

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