『ミイラ再生』、『フランケンシュタインの花嫁』、『透明人間』と言った1930年代に上映された往年のモンスター映画をリブートすべく、ユニバーサル・ピクチャーズが立ち上げた「ダーク・ユニバースプロジェクト」。
その第1弾として、『ミイラ再生』のリブート版でトム・クルーズ主演の『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女(原題:The Mummy)』が2017年6月9日、日本では2017年7月28日に上映・お披露目された。
しかし、批評家・観客からの評価は芳しくなく、興行収入もユニバーサル・ピクチャーズの期待に反する結果に終わり、以降のリブート計画は急停止。2019年初頭には、新体制による後続予定作品の仕切り直しが報じられ、プロジェクトは事実上の終焉を迎えた。
そんなダーク・ユニバースプロジェクト最初で最後の1作になってしまった『ザ・マミー』であるが、実は映画上映の3〜4ヵ月後、同作を原作としたゲームが発売されていた。
その名も『The Mummy Demastered(ザ・マミー デマスタード)』。 今回はこちらの作品をピックアップする。
『The Mummy Demastered』は、件の『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』を原作としたアクションゲームだ。開発は「WayForward Technologies」。本連載の第3回にて紹介した『シャンティ -海賊の呪い- for Nintendo Switch』を制作したことで知られるゲーム開発会社だ。
2017年10月24日、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One、PC(Windows)用ダウンロードソフトとしてリリース。ただ、Nintendo Switch、PlayStation 4版は海外限定。国内は「Steam」及び「Microsoft Store」のWindows版、11月1日にリリースされたXbox One版の2種類のみとなる。
なお、全機種日本語に対応しており、海外限定のNintendo Switch、PlayStation 4版もそちらで遊べる。しかし、購入するには海外アカウントと専用ウォレットのチャージなどが必須となるので、ご注意いただきたい。
肝心の内容は探索型のアクションゲーム。「プロディジウム」なる対モンスター討伐組織のエリート隊員のひとりになって、2000年の眠りより目覚めた古代エジプトの邪悪な王女「アマネット」を排除すべく、呪われたイギリス・ロンドンの地を巡っていくという内容だ。
原作映画はトム・クルーズ演じるアメリカ軍の軍曹「ニック・モートン」が主人公を務めたが、本作はプロディジウム所属の名もなきエリート隊員。ニックは登場せず、プロディジウムとアマネット、ロンドンと言った一部設定のみが共通した独自のストーリーになっている。そのため、映画未見の人でも難なく入っていける作りだ。
ゲームシステムは探索型、名を出してしまうと特に任天堂の『メトロイド』を非常に強く意識した作りになっている。具体的には銃火器を用いて敵に対処する戦闘スタイル、地下の洞窟を始めとする薄暗い地を主体としたロケーション、プレイヤーの強化手段が専用のパワーアップアイテム取得に限定されている所がそれに当たる。
ただ、独自要素もある。
1つに銃火器。初期装備の「サブマシンガン」を除き、全てに弾数制限がある。
本作ではゲームが進むにつれ、「アサルトライフル」、「ショットガン」と言った強力な銃火器が手に入っていくのだが、いずれも無限に撃てず、残弾数を意識しながら活用していくことになる。
また、1度に持てる銃火器は2つ。無制限のサブマシンガンは専用枠で所持する形になるが、他のスペースにはそれ以上の武器をセットできないのだ。なので、状況に応じて装備を切り替えていく必要がある。
その切り替えもどこかにある「倉庫エリア」と呼ばれる、弾薬などが置かれた場所でしかできないため、その後の展開を踏まえた装備を意識するのが大事。やや不便ながら、人類に牙をむくモンスターと戦う緊張感を高める設計になっている。
件のモンスターも耐久力が高く、なるべく強力な武器で応戦するのが基本。しかも、結構な数がマップ上に存在するので、安易な力押しも通用しにくい。
もちろん、モンスターの攻撃を受け続けて体力が0になれば隊員が力尽き、ゲームオーバーだ。だが、本作が面白いのはその隊員が「マミー」と化すこと。要は新たな敵として、やられたポイントを徘徊するようになるのだ。
そして、コンティニュー時には別の隊員が呼び出される。しかも、その隊員はパワーアップアイテムや手に入れた銃火器を所持していない。以前の装備一式はどこにあるのか?
マミー化した隊員が持っているのだ!
なので、元の状態に戻るにはマミーと化した元隊員を倒さねばならない。これが2つ目の独自要素。主人公を組織に属する隊員とした設定を活かした、シビアで無慈悲なものが盛り込まれているのだ。それもあって、ゲームオーバーからのリトライ時に課せられるリスクが大きめ。
幸い、返り討ちにされても装備一式が無に帰すことはないが、その分、マミーの数が増えるので、難易度は上がっていく。なので、本作はとにかく生き残ることが大事。そして、隊員を大事にする気持ちも持たねばならない、ユニークなシステムになっている。
このように探索型アクションとしては、比較的王道寄り……というか、ほぼメトロイドだ。ただ、無名の隊員という設定を活かしたペナルティ、残弾を意識しながらの戦闘での立ち回りなどで独自のゲームバランスを表現していて、似ているけれども違う、それでいて題材のマミーらしさにも溢れた、個性的な作品に完成されている。映画を原作としながら、その前提知識が必要とされないハードルの低さも特徴のひとつだ。
トム・クルーズファンは「なんで!?」となるかもしれないが。
悪く言えば、銃火器の弾数制限、マミー化を除けばゲームとしてはほぼメトロイドのクローンだ。真新しさは弱い。ただ、探索型アクションの金字塔たる作品を基にしているだけに、ゲームデザイン面の安定感は抜群。シリーズを少しでも遊んだ経験のある人はもちろん、初めてプレイする人にも親しみやすいアクションゲームに仕上がっている。
昨今の探索型アクションゲームらしい配慮がきちんとしているのも見所。特に目的地(ウェイポイント)を教えてくれるナビゲート機能は標準で備わっているので、行き先が分からなくなる頻度も少なく、かと言って常に順調とはならない絶妙な塩梅で進めていける。ルートを辿れば周辺区域を完全踏破できることもなく、何かしらの取りこぼしが生じるという、再訪時の楽しみを残す工夫も万全。
それにちなんだ隠されたステータス強化アイテム、「遺物」と呼ばれる特殊なコレクトアイテムを探し出すやり込み要素もきちんと備わっているので、特にこのジャンルに慣れ親しんだ人なら「これぞ探索型アクション!」と唸ること間違いなしだ。全体の構成から、元にしたメトロイドへの敬意が溢れているのも、シリーズのファンなら必見である。
具体的には雑魚敵の固さのことで、それが超人的な身体能力、特技を持った人物が挑む傾向の多い探索型アクションとは一線を画す手応えを演出している。なるべく強い銃火器で戦うようにし、弾切れを起こさない程度に各個撃破を心がけていく過程には、武装していてもモンスターとは力の差が開きすぎている人間が歯向かっている気持ちにさせてくれる。
特にエリアの要所ごとに現れるボスは、フル装填した銃火器を投入して挑まないと長期戦が避けられなくなるので、嫌でも設定からくるハンデを思い知らされる。それもあって、無事に倒し切った時の安心感と達成感も大きい。
かと言って、サバイバルなテイストを出し過ぎない配慮が凝らされているのも見事。敵を倒せば高頻度で銃弾を補充するアイテムを落とすほか、「倉庫エリア」では無限に満タンまでの弾数補充が可能。後者は目的地から外れてたり、距離が離れていることも多いので、それほど頻繁に使える感じではないが、シビアにしすぎず、かと言ってイケイケになりすぎずの塩梅は絶妙。ストーリー上の設定をギリギリまで活かしてバランスを保つ、制作スタッフの努力に満ちた調整には分かる人なら唸ってしまうはずだ。
探索型アクションらしく、ゲームの進行に応じて新しいアクションが可能になるアップグレードシステムは本作にも健在。ただ、討伐組織の隊員(名もなき兵士)の設定を踏まえてか、全体的に現実味のあるアクションがほとんど。ジャンプ力が上がる、水中に潜れるようになる、天井を掴めるようになるなど、一目で探索にどんな変化が及ぶのかが想像しやすいアクション中心になっていて、ぶっ飛んだアクションが可能になるのが定番のこの手のジャンルとしては、やや珍しいものになっている。
ただ、全くその手のアクションが存在しない訳ではない。ゲームクリアとは関係ない寄り道要素の位置付けで、その手のアクションが用意されている。しかし、(少しネタバレになってしまうが)身体を小さくする、コウモリに変身、周囲の時間を遅くすると言ったような荒唐無稽なものは無いので、過度な期待は禁物。逆にそういうものでも現実味重視なのが見所?
ここまでのスクリーンショットを見ればお分かりの通り、グラフィックは背景からキャラクターに至るまで、全てがドット絵で描写。しかも、デザイン全般はシャンティのスタッフが担当。盤石と言わんばかりの布陣だ。
シャンティもそうだったが、特に注目は各エリアの要所で待ち構える巨大なボスたちだ。いずれも威圧感に溢れた容姿、ドット絵の芸術と言わんばかりの滑らかなアニメーションで見る者を魅了させる。一部、どこかのゲームで見覚えのある動きを見せたり、構図がソックリな個体が存在するのも大きな見所だ。
また、バックで流れる音楽も古き良き時代を意識した印象深い楽曲揃いになっている。こちらはグラフィックと違い、シャンティとは違うクリエイターが担当しているのだが、8ビット風の旋律を織り交ぜた作風は強く印象に残ること間違いなし。
ボリュームもエンディングを目指すだけなら3〜4時間程度と、探索型としては平均的な物量で、2周目以降のやり込みにも気軽に挑戦できるのが嬉しい。先も触れたが、隠されたアイテムの発見、マップ全体を踏破するやり込み要素に加え、タイムアタックにも当然のように対応しているので、極めたいプレイヤーへの配慮も盤石だ。
ただ、難易度を行きすぎない程度に調整した反動で「マミー化」のシステムが形骸化していたり、随所で足場ギリギリのジャンプが求められるなどの難点も。操作性も全体的には良好なのだが、頭部の当たり判定が妙に広く、天井に引っかかりやすい。敵配置も少々陰湿気味なほか、マップを切り替える度に復活する仕様も相まって、銃火器の弾数制限がマップ踏破時のストレス要因になってしまっているのも、気になるところだ。ボスも攻撃がワンパターンなので、やや単調になりやすい。
ローカライズも翻訳は申し分ないのだが、本来表示されるべき漢字が表示されず、空白になってしまっていると言った実装テストの不備と思しき脱字が見受けられるのも残念なところだ。
いずれも映画を原作としているがゆえのサガか……と思うところもあるが、全体的に探索型アクションのツボは見事に押さえた仕上がりで、良作以上と自信を持って言える出来になっている。映画のような超人的なアクションは皆無だが、それとは真逆の人間的なアクションを描くことに特化した点は面白く、いい意味で魅力の差別化も図られている本作。正直な所、日本では購入ルートが制限されているが、アクションゲーム好きならば機会があったら遊んでみていただきたい1本だ。名もなきモンスター討伐組織の一員になり、マミー化の恐怖を意識しながら、邪悪な王女の討伐を目指そう。
全てはプロディジウム、人類のために!
【ゲーム情報】
タイトル:『The Mummy Demastered』
発売元・開発元:WayForward
対応ハード:Xbox One、PC(Steam)
ジャンル:アクションアドベンチャー
価格:2,160円[税込](Xbox One)、2,050円[税込](PC)
関連リンク:
■商品&購入ページ:Xbox One版(Microsoft Store内)