劇場公開のアニメ―ション映画を中心にお送りしている映画のレビュー・感想記事。今回は、人間とドラゴンの絆を描いたアメリカのCGアニメーション映画の第三作目『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』(原題: How to Train Your Dragon: The Hidden World)を紹介します。
『ヒックとドラゴン』シリーズは、『ボス・ベイビー』や『シュレック』シリーズなどでも有名なドリームワークス・アニメーションが手掛けるCGアニメーションシリーズ。バーク島で暮らす、バイキングの長の息子・ヒックと、伝説のドラゴンであるナイト・フューリーのトゥースとの絆の物語です。
映画1作目『ヒックとドラゴン』では、長年殺し合っていたバイキングとドラゴンが、トゥースと絆を結んだヒックによって互いを認め合い、共存の道を選ぶまでが描かれました。続く2作目『ヒックとドラゴン2』は、前作の5年後が舞台。生き別れになっていたヒックの母親・ヴァルカの登場や、ドラゴンを憎む敵・ドラゴの登場によって、ヒックとトゥースの絆が再び試されます。
そして3作目『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』でヒック率いるバイキングたちは、世界中のドラゴンを保護してまわったことで手狭になったバーク島から、新天地へと旅立ちます。トゥースに訪れる新たな出会いや、ドラゴを上回る最強の敵、ドラゴンハンターのグリメルとの対峙を経て、ヒックが下す決断とは?
1作目、2作目を経て、立派なバイキングのリーダーに成長したヒック。仲間たちからはガールフレンドのアスティとの結婚を勧められるも、本人たちはまだその気はない様子。仲が良く、信頼関係もあるふたりは、傍から見ればもう結婚してもいいんじゃない? と感じますが、今の距離感が心地良いからこそ、あえて新しい関係を結ぶ必要を感じない、ということなのかもしれません。大きな変化が生じる事柄には、少なからず怖さを感じるもの。“変化を受け入れる”というのは、『聖地への冒険』を貫く大きなテーマのひとつと言えるでしょう。
いっぽうでヒックの相棒、トゥースには、恋の季節が到来します。バーク島の森で、トゥースと似た姿の、けれど正反対の真っ白な身体を持つメスのドラゴン「ライト・フューリー」と出会い、夢中になるトゥース。けれど彼女が現れたのには、ある理由があったのでした。
本作の見どころのひとつが、恋に夢中になったヒックの可愛らしさ。あの手この手でライト・フューリーの気を引こうと必死になるトゥースの求愛のダンスには、ちょっと滑稽なところも含めてキュンとしてしまいます。これまでのトゥースには見られなかった百面相には、ずっと一緒に過ごしてきたヒックの影響も垣間見えます。トゥースの恋を陰ながら応援するヒックの姿も、如何にトゥースが大事な存在かが分かってグッとくるところ。一抹の寂しさを感じつつも、相棒のために何かしてあげたいヒックの健気さに心を打たれます。
ヒックとトゥースに訪れるそれぞれの“選択のとき”と同時進行で描かれるのが、バーク島の定員オーバー問題と、トゥース以外のナイトフューリーを皆殺しにしたというドラゴンハンター・グリメルの脅威。特にグリメルはドラゴンの習性を把握した上で知略を巡らせ、常にヒックの考えを上回ってくる、前作の敵・ドラゴを超える強敵として描かれます。日本語吹替版でグリメルを演じる松重豊さんの名演も、彼の怖さに説得力を与えていると感じました。
“バーク島の危機”と“グリメルの脅威”。両方の問題を解決するためにヒックは、幼い頃に父親のストイックに教わった、言い伝えだけが残る幻の「ドラゴンだけの王国」を探す旅に出ることを提案します。本当にあるかも分からない場所を探して故郷を捨てるという決断に、反対するバイキングたち。ここでも“変化に伴う不安”が描かれます。しかし今のヒックには理解者もたくさんいます。なんとかみんなを説得して冒険に旅立つヒック。その先で彼は、自分自身とってさらに大きな選択を迫られることになるのです。
どんなに幸せな日々が続いたとしても、誰もが生活の中で少しずつ変わっていくもの。自分自身の変化、周囲の人の変化、環境の変化。それらの要因が重なって、やがて人生の新たなステージに向かわなければならないときが訪れます。シリーズものの続編で描かれることの多いテーマですが、『聖地への冒険』はこのほろ苦いテーマを描きながらも、明るく希望に満ちた結末を見せてくれます。もちろん手に汗握る戦いや、ドラゴンたちが大空を駆け巡る迫力満点の映像も見応え抜群! シリーズを追い掛けてきた方は、ぜひ劇場で本作を見届けてください。
2019年12月20日(金)より全国の劇場にて上映中!
上映時間:104分 劇場情報はこちら
【スタッフ】
監督/脚本/製作総指揮:ディーン・デュボア
原作:クレシッダ・コーウェル(「ヒックとドラゴン」シリーズ 小峰書店刊)
製作:ブラッド・ルイス ボニー・アーノルド
美術監督:ピエール=オリヴィエ・ヴィンセント
編集:ジョン・カー
音響デザイン:ランディ・トム
音楽:ジョン・パウエル
【キャスト】
ヒック:ジェイ・バルチェル(日本語吹替:田谷 隼)
アスティ:アメリカ・フェレーラ(日本語吹替:寿美菜子)
フィッシュ:クリストファー・ミンツ=プラッセ(日本語吹替:宮里 駿)
タフ:ジャスティン・ラップル(日本語吹替:南部雅一)
ラフ:クリスティン・ウィグ(日本語吹替:村田志織)
スノット:ジョナ・ヒル(日本語吹替:淺井孝行)
ストイック:ジェラルド・バトラー(日本語吹替:田中正彦)
ヴァルカ:ケイト・ブランシェット(日本語吹替:深見梨加)
エレット:キット・ハリントン(日本語吹替:小松史法)
グリメル:F・マーレイ・エイブラハム(日本語吹替:松重 豊)
ゲップ:クレイグ・ファーガソン(日本語吹替:岩崎ひろし)
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