漫画配信サイト及びアプリの「少年ジャンプ+」にて連載されている、KAITO氏が描く青春漫画『青のフラッグ』。現在、この作品がアプリ版「少年ジャンプ+」にて全話初回無料配信中とのことで、ずっと気になっていた筆者は読んでみることに。より多くの方に読んでほしいと思える漫画だったので、紹介しようと思います。
筆者はあまりマンガアプリを利用しないので「初回無料」という概念がよく分からず、「いちどアプリを閉じたら全話一切読めなくなってしまうの? 最新話まで読むにはイッキ読みしなきゃいけないの?」などと勘違いしていたのですが、そんな不親切な仕組みではありませんでした 笑
「少年ジャンプ+」の場合、話数ごとに「初回無料」のマークが付いていて、他の話数を読みはじめるときに「初回」が終了する仕組み。ちゃんと別の話数を読み始めるときに警告文も表示されます。
「初回無料」が終了してしまった話数は有料の「コイン」を消費することで再度読むことができます。ちなみにいま「少年ジャンプ+」のアプリを使いはじめた場合、初回特典で100コインが手に入るので、「青のフラッグ」(再読のとき消費するコインは30コイン)ならば3話分再度読むことができます。
「初回無料」はアプリ版の「少年ジャンプ+」のみで利用可能。ウェブ版では利用できません。ただしどちらも第1話から第5話までは常時試し読みできるようになっているので、まずはこの第5話までを読んでみたうえで、続きを読むかどうか決めてみてはいかがでしょう。
一ノ瀬太一(いちのせ たいち)はこの春から高校3年生。恋人と呼べる相手も、親友と呼べる相手もいないパッとしない生活を送っている彼ですが、幼馴染で野球部キャプテンの三田桃真(みた とうま)からは何かとちょっかいを出されます。子どもの頃はいつも仲良く遊んでいた太一と桃真。けれど太一はいつしか桃真に引け目を感じるようになり、今では普段つるんでいるグループも全く違う桃真が未だに自分を気にかけていることに、居心地の悪さを覚えています。
そんなとき、太一はある出来事をきっかけにクラスメイトの空勢二葉(くぜ ふたば)と急接近。彼女の桃真に対する恋心を知ることになります。どんくさくて引っ込み思案な二葉に自分と通じるものを感じていた太一は彼女の恋をサポートすることに。けれど桃真にも誰にも明かしていない秘密があって…?
序盤のあらすじからも分かる通り、本作は恋愛要素の比重が高めの青春物語です。けれど恋愛がメインの作品かというとちょっと違うように思います。
十代の頃、異性に対して「あの人のことをもっと知りたい」と言ったら、それは恋愛感情だと決めつけられがちです。けれど、同性に対して「あの人のことをもっと知りたい」と言えば、それは単に友達になりたいということだと受け取られるでしょう。そしてそんな周囲の反応は、発言者の振る舞いに確実に影響を与えます。学校生活においては、性別や、自然と決まってくる学内グループ、イケてる、イケてないといった価値基準など、何重にも存在するレッテルの中で、「自分の抱いている感情は何なのか?」という判断は簡単に揺らぎ、たとえ分かっていても気持ちに正直な行動を取れないこともしばしばあります。
自分の感情でさえ把握しきれないのですから、他者から自分が本当はどう見えているかなんて尚更分かりません。誰の中にも偏見は確実に存在します。「こいつは俺よりもずっと充実した学校生活を送っている」と感じる相手が、自分に心から憧れているなんて、想像できる人はあまりいないでしょう。『青のフラッグ』はそんな自意識や秘密を抱えた男女が、それでもなりたい自分に近づこうとしたり、大切な相手とよりよい関係性を築こうとする物語であると感じます。
物語冒頭、太一は桃真に対して劣等感を抱き、彼と距離を取ろうとする一方で、桃真とよりよい関係を築く方法があることにも心のどこかで気づいているはずです。二葉は桃真と仲良くなるために太一にサポートしてもらいながら、変化していく自分の想いに戸惑います。太一や二葉が自分の本当の気持ちに気づくとき、必ずそこには周囲の誰かのひと押しがあります。若者は他者との関わりの中で自分を見失いもしますが、よりよい自分に変化するきっかけもやはり側にいる誰かなのです。『青のフラッグ』はそんな人と人との関わりの困難と希望を、どちらが欠けることもなく誠実に描いてくれているのです。
昨今は性的マイノリティ、いわゆるLGBT(Q+)を主題にした創作が増えています。本作にも同性に恋愛感情を抱くキャラクターが登場しますが、その扱いが非常にフラットである点も本作の魅力です。人にはそれぞれ固有の悩みがあり、それらは本来比較できるものでも、誰かの悩みだけを特別扱いすべきものでもありません。それぞれの悩みのどれかを主題にするのではなく、完全に共有することなどできない悩みをそれぞれ抱えた少年少女が、それでも相手の気持ちに寄り添っていこうとする物語だから、本作は様々な読者の支持を得ているのでしょう。本作がきっかけで、自分にはない悩みを持った人の気持ちを、以前よりも少しだけ想像してみるようになる方もいるかもしれません。
まずは試し読みができる第1話から第5話までを読んで、本作が描く太一の、二葉の、桃真の、そしてエピソードを重ねるごとに掘り下げられていく真澄やマミ、シンゴたちの瑞々しい痛みや変化に触れていただきたいと思います。
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