先週のIMAX版先行上映の時点で、すでに大絶賛の声があちこちから聞こえてきたアメコミ原作のアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』。一般公開初日となる本日3月8日、僕も本作を鑑賞してきました。結論から言ってしまいますが、本当に素晴らしい作品だったので、多くの方にできればIMAXなどの良い環境で鑑賞していただきたいと思います。スパイダーマンのことをあまり知らなくても楽しめますよ!
■『スパイダーマン:スパイダーバース』作品概要
『スパイダーマン:スパイダーバース』(原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse)はスパイダーマン初の長編アニメーション映画。偶然スパイダーマンの力を手に入れたシャイな黒人少年“マイルス・モラレス”を主人公に、様々な世界に存在する全く別のスパイダーマン同士の共闘が描かれます。
マイルスの世界で元々活躍していた「初代スパイダーマン」の“ピーター・パーカー”は犯罪組織を牛耳る男“キングピン”の野望を止めるための戦いの中、マイルスの目の前で死んでしまいます。その後、キングピンの計画によって次元の異なる世界の境界が曖昧になり、やってきたのは別の世界で死ぬことなく暮らしていた、おじさんになりすっかりうらぶれてしまった“ピーター・B・パーカー”。その後も女性スパイダーマン、1933年からやってきたハードボイルドなスパイダーマン、スパイダーマンと同等の能力を持ったロボットに乗って戦うアジア系の少女など、他の世界の個性豊かなスパイダーマンたちが次々に現れ、力をひとつにキングピンに立ち向かうのですが……というのがおおまかなストーリー。
監督はボブ・ペルシケッティ氏、ピーター・ラムジー氏、ロドニー・ロスマン氏の3人で、脚本は『LEGO ムービー』などのフィル・ロード氏。
また本作は2019年2月24日に授賞式があった「第91回アカデミー賞」において細田守監督の『未来のミライ』やディズニー作品の『シュガー・ラッシュ:オンライン』など強力なノミネート作品を退け、見事「長編アニメーション賞」を授賞、その他にも世界中の映画賞を総なめにしています。
■革新的アニメーション表現!!! 描かれるのは普遍的な師弟の成長物語
本作はあらゆるアニメーション映画とも一線を画す革新的な映像表現を実現しています。まず感激したのがアニメーションの快感を追求しながらも、スパイダーマンの原点である「アメコミ的」な演出を映像に落とし込む独特の表現。たとえばスパイダーマンの代名詞である糸を伸ばしてビルからビルへと空中を飛び移っていく“ウェブスイング”にはカメラワークも含めた動的な気持ちよさがありますが、そこから敵への攻撃に移行する際、アクションが「決め絵」になる瞬間は一瞬背景がビビッドな色に変化し、キャラクターの輪郭線が強調されるなど、コミックの「決めの1コマ」を意識したような演出がなされます。他にもマイルスの悲鳴が文字として表示されたり、回想シーンではコマ割りのようなフレームの中でキャラクターたちがアニメーションするなど、コミックをリスペクトした演出が動的な映像の中でシームレスに展開される様は極めて刺激的。
さらに異なる次元のスパイダーマンたちが集結してからは、あたかも「別々の作家が手掛ける画風の異なるコミック」のキャラクターが違和感なく共存しているような不思議な映像に魅せられます。特に日本のアニメの要素も感じられるデフォルメされた造形の女の子“ペニー・パーカー”の存在が作品の絵づくりに与えているインパクトは強烈。
■映画『スパイダーマン:スパイダーバース』本編映像<ペニー・パーカー編>
これら映像表現における凄みは予告動画だけでは分かりづらいのですが、ぜひなるべく良い映像で鑑賞できる、環境の整った映画館に足を運んでいただきたいと思います。
映像としては革新的で華やかな本作ですが、ストーリーラインはオーソドックスかつ極めて丁寧。スパイダーマンの力を上手く扱えないマイルズを見かねたピーター・B・パーカー(おっさん)が、ヒーローとして大切なことをマイルズに教えながら、自身も失ったものを取り戻していくという、師弟関係となったふたりの成長物語が支柱になっています。
マイルズやピーター・Bの序盤の台詞や行動が成長の証として終盤で見事に回収されていく脚本は実に秀逸。特筆すべきはスパイダーマンの「コスチューム」や「マスク」が、マイルズのアイデンティティの確立や、さらには「誰もが勇気を持って行動したときからヒーローになれる」といったメッセージを伝えるためのキーアイテムとなっている点。これによってメッセージが映像的にも強い説得力とカタルシスを生んでいて、これらが効果的に使われているあるシーンが、個人的に本作のハイライトだと感じました。笑えるシーンも多く、それでいて無駄な台詞がひとつもない、笑って熱くなって感動できる本作は、ストーリーにおいても世界最高水準と言えると思います。
総じて本作はスパイダーマン好きだけに留まらず、映画好きやアニメ好き、そして映像作品を愛するすべての人々におすすめできる作品になっていると言って過言ではないでしょう。今回僕は英語音声・日本語字幕での鑑賞でしたが、宮野真守さん、小野賢章さん、悠木碧さんら実力派声優陣による吹替版も、必ず観に行くつもりです。
■『スパイダーマン:スパイダーバース』はこんな方にオススメ!
・アメコミが好きな方
・師弟関係ものが好きな方
・フィル・ロードの脚本が好きな方
・アニメーションが好きな方
・とにかく全く新しい映像表現に度肝を抜かれたい方
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