“スローシネマ”と呼ばれる方式で、ゆっくりと全国各地をまわって上映会が行われてきたパペット・アニメーション『ちえりとチェリー』。この作品のイオンシネマ系列の映画館による全国公開が本日2月15日(金)より始まりました。『アイドルマスター シンデレラガールズ』の“前川みく”役などで有名な高森奈津美さん、歌手や俳優としても人気の星野源さんが出演していることでも話題の本作の感想を、今回はお届したいと思います。
■『ちえりとチェリー』作品概要
あらすじ
ちえりは小学6年生の女の子。幼い頃に父を亡くし、母親と二人暮らし。
母親は仕事に忙しく、ちえりの話し相手をしてくれない。
そんなちえりの唯一の友人が、父の葬儀の時に蔵で見つけたぬいぐるみの“チェリー”だった。
チェリーはちえりの空想の中では父親の代わりにちえりと話し、遊び、助言し、守ってきた。
ある日ちえりは、父親の法事のため、久しぶりに祖母の家にやってくる。
そこでちえりを待ち受けるものとは…… 空想と現実の狭間で、不思議な冒険が始まる!
2015年に初公開され、その後クラウドファンディングなどを経てこのたび全国上映となった『ちえりとチェリー』。監督・脚本を務めた中村誠氏は、本作の制作に入る少し前、お母様を亡くされたそうです。その後、東日本大震災があり、これらの出来事が『ちえりとチェリー』の物語の方向性を決定付けたとのこと。
キャラクターデザインはロシアアニメ界を代表する美術監督のレオニード・シュワルツマン氏と『ジュエルペットてぃんくる☆』などに携わった伊部由起子氏が担当。音楽は『ワンダと巨像』なども手掛けた大谷幸氏。中村誠監督との共同脚本として、『リトルウィッチアカデミア』のシリーズ構成を担当し、2017年に亡くなった島田満氏も名を連ねています。
■“想像力”を軸にしながら、“人の死”と誠実に向き合った物語
“生々しい存在感”を目指してセルアニメではなくパペット・アニメーションで制作された『ちえりとチェリー』。そのキャラクターたちの造形は、可愛らしくもリアリティのある絶妙なバランスです。特に主人公:ちえりのころころと変化する表情や視線は、高森奈津美さんの演技も相まってまるで本物の女の子を見ているかのよう。そして他人に対しては引っ込み思案、けれど自分の空想の世界に入ると快活というちえりの性格が即座に理解できるように表現されています。
ちえりは父親を亡くしてから、ぬいぐるみの“チェリー”と一緒に空想の世界を楽しむようになります。父の法事で訪れた馴染みのない祖母の家は、ちえりが楽しい空想をするにはうってつけ。一方で、ちえりが親戚の子どもたちに心を開けない様子も描かれます。本作におけるちえりの空想は、無限の可能性を持つ素晴らしいものであり、ちえりの心強い味方としてポジティブに描かれる一方で、ちえりが他者に対して心を閉ざす原因、そして悲しみや恐怖を増幅させてしまうものとしてネガティブな側面も描かれているのです。
空想の中で、祖母の家に住み着いたねずみや猫とも友だちになるちえり。彼らと繰り広げる冒険の中で、ある出来事を切っ掛けにちえりはチェリーが生まれた理由を思い出します。それは「父親の死」と改めて向き合うことでもあり、そして父親が生前、彼女に確かに残した“想い”を受け取ることでもあったのです。ここで対峙するちえりの空想が生み出した「敵」のビジュアルは大人の僕が見てもかなり怖い! 子どもの頃の、ふと目にしてしまったホラー映画のワンシーンが頭をよぎって夜に眠れなくなるような感覚を思い出してしまいました。しかし本当に恐ろしいからこそ空想の負の一面と対峙し、乗り越えようとするちえりの成長には感動があります。
「歳歳年年人同じからず」という言葉がキーワードとして繰り返し登場する本作。これは人の世の無常を表した言葉ですが、この世を去っていった人たちの想いは、きっと今を生きる人たちの胸に息づいているーー『ちえりとチェリー』はそんな前向きな気持ちと共に爽やかな余韻に浸れる素晴らしい作品でした。ラストではひとりで苦労して娘を育てながらも、彼女への接し方に悩むちえりの母、万里恵の変化も描かれており、子育てを経験した方はまた違った感じ方のできる作品かもしれません。
■『ちえりとチェリー』はこんな方にオススメ!
・パペット・アニメーションに興味がある方
・爽やかに感動できる人間ドラマが好きな方
・女の子が頑張る作品が好きな方
・人の命を誠実に描いた作品が好きな方
・お子さん、お子さんを持つ親御さん
■Salyu「青空」MV (Full)
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©「ちえりとチェリー」製作委員会