エビ、カニ、ヤドカリやサンショウウオ、イモリ、カエル等のうんちくWiki「Decapedia」の中の人が身近な生き物について抜粋して紹介する特集コーナー第13回は、これぞ身近な生き物「ホンヤドカリ(Pagurus filholi)」をご紹介します。
海水浴場や潮干狩り場の様な砂や泥の海にはいませんが、自然の地形が残った海岸なら必ず出会えます。北は北海道から南は九州まで、太平洋側であろうが日本海側であろうがホンヤドカリはいます。夏でも冬でも活発に活動しています。
ホンヤドカリは典型的な北方起源※1のヤドカリで右鉗脚が大きいです。我国の磯を代表するヤドカリの一つで、太平洋側でも日本海側でも高潮帯から低潮帯にかけて普通に見られます。タイドプールでもごく普通に見られ、岩礁地帯だけではなく礫底海岸やゴロタ浜でも見られますが、干潟や砂地では見られません。
国防色の冴えない体色ですが、鉗脚と歩脚の先が白く、また眼の渦巻模様と第二触角の縞模様がとても目立ち、海面下にいてもすぐに本種だと見分けがつきます。(主に太平洋側では)イソヨコバサミ(Clibanarius virescens)やケアシホンヤドカリ(Pagurus lanuginosus)と同所的に見られることも多いですが、浅いタイドプールで見られるのは、ほぼホンヤドカリのみで構成されるコロニーで、満潮時に波が直接洗う様な場所では3種が混合して見られることが多いです。
※1:寒海起源とも=寒海性のヤドカリの祖先から分化した種。北方起源と南方起源は、それぞれ別の祖先から収斂進化し、似た形質を持ったとする説もあります。北方起源のヤドカリにはホンヤドカリやタラバガニが含まれ主に右の鉗脚が大きく、南方起源のヤドカリにはスベスベサンゴヤドカリ、オカヤドカリやイソヨコバサミ等が含まれ左の鉗脚が大きい、または左右同大のことが多いです。
一般に海棲ヤドカリの飼育は容易で、海水魚が長期飼育できる程度の環境さえ整っていれば2、3年は維持できます。ホンヤドカリも同様で強健な種類ですが、魚等の鈍感な生き物に比べると水質悪化や水質の急変には弱いです。
マリンアクアリウムの世界では、水棲のヤドカリは水槽の掃除に役立つ生き物という位置づけですが、意外に大食漢です。どちらかと言うと少食なオカヤドカリの感覚でいるとすぐに餓死しまので、魚の残餌だけではなく、ホンヤドカリにも餌を与えてください。またライブロックに生える石灰藻などを摘んでいる様子は観察されますが、水槽面に生える藻(通称コケ)を食べることはほとんどありません。
簡単な飼育方法については後述します。
節足動物門 > 甲殻亜門 > 軟甲綱(エビ綱)> 真軟甲亜綱 > ホンエビ上目 > 十脚目(エビ目)> 抱卵亜目(エビ亜目)> 異尾下目(ヤドカリ下目) > ホンヤドカリ上科 > ホンヤドカリ科 > ホンヤドカリ属
ホンヤドカリの繁殖期は真冬~初春(南紀では1~3月ぐらいまで)で、冬に磯へ行くとオスがメスを貝殻ごと持ち運ぶ様(通称:鞄ヤドカリ)が見られます。これは交尾前ガードと呼ばれるもので、運ばれているメスは抱卵中であることが多いです。持ち運ぶ際は、雄は左の小鉗脚を使い、右大鉗脚は同種間の雌争奪戦に使用します。
寒風吹きすさぶ真冬の海は生き物の活性も低く、わざわざ観察に出掛けるのは億劫なのですが、ホンヤドカリがあちこちで鞄を持ち運んでいる姿には心和みます。ご覧になりたい方は、防寒装備完璧にしてお出掛けください。
ホンヤドカリは、ファミリーで磯遊び等へ行った際、子供の格好の遊び相手になります。カニの様に素早くありませんし挟む力も弱いので子供は必ず捕まえます。「家に持って帰りたい」と言い出すことも多いと思います。こうした場合、特に大掛かりな飼育設備を使用しなくても、とりあえずならプラケースで飼育することが可能です。
プラケースに2センチぐらい底砂を敷きます。細かい砂の方が良いのですが管理が大変なので、ゴマ粒大ぐらいで大丈夫。大磯砂でも熱帯魚用のセラミックサンドでも川砂でも海砂でもサンゴ砂でも何でも大丈夫です。陸地には滅多に上がらないので、石などを置く必要はありません。
市販の人工海水をカルキを抜いた水に溶き、比重計の目盛が1.020以上1.023以下であることを確認してから入れます。ケースの高さにもよりますがが15~20センチぐらいまで入れた方がよいでしょう。
人工海水は海水魚を扱っているペットショップで購入できます。最近ではAmazonにも複数あるので、入手は容易です。比重計も同様です。
※食塩(粗塩や、天然塩や自然塩と商品名にうたっているものも含む)を水に溶いても海水とは全くの別物なのでNGです。代用もできません。
エアポンプで海水中に空気を送ってやります。ホースの先はエアストーンでも良いのですが、水作等の投げ込み式のフィルターに繋ぐのも有効です。エアポンプや水作もペットショップやAmazonで入手可能。
※海水にエアポンプを使うと塩ダレが生じるので、電化製品やコンセントタップの近くに置くのは止めましょう。また、エアポンプのコンセントタップは飼育ケースよりも高い場所に置き、コンセントタップに直接水が垂れない様にします。
餌は1~2日置き。夏場や冬場は1週間に1回程度。茹でて冷凍しておいたアサリ等を少量刻んで与えましょう。食べ残したものはすぐに取り除いてください。市販の熱帯魚の餌(沈下タイプ)も食べますので、こちらを主食にしても良いでしょう。
水は季節によりますが、一週間置きに1/3ずつ換えましょう。
この方法で子供たちが飽きてしまうまで(1~2ヶ月程度ぐらい)なら飼育することができます。
長期飼育したいという方は、マリンタンクを立ち上げましょう。通常、マリンタンクの立ち上げには水槽のセッティングから空回しで1ヵ月程度は掛かりますで、この方法でキープしながら準備するとよいでしょう。
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