エビ、カニ、ヤドカリやサンショウウオ、イモリ、カエル等のうんちくWiki「Decapedia」の中の人が身近な生き物について抜粋して紹介する特集コーナー第12回。以前に紹介した「アカテガニ(Chiromantes haematocheir)」と見た目が似ていて見分けるのが難しい「ベンケイガニ(Sesarmops intermedius)」を今回はご紹介します。
【特集】「身近な生き物を観察しよう」その6 - GW明け辺りから海岸近くにも姿を現すアカテガニ
今回は夏の海近くのキャンプ場や民宿の庭、海岸近くの崖などで見られる「身近!」なカニですが、かなり警戒心が強くバードウォッチャーが持ってるバズーカみたいな望遠レンズ付きの一眼レフ(ry
ベンケイガニは海岸近くの森や崖、干潟や河口の泥地など、海辺では最もよく目にする陸棲のカニです。アカテガニに比べると海水への依存度が高く、海から遠く離れた場所で見掛けることはあまりありません。ペットショップ等で「アカテガニ」といって売られているものは、(海=カニという感覚でいる分には採取場所が特定しやすく、また採取業者等が活動する様な夜に捕獲しやすいためなのか)ベンケイガニであることが多いです。
体全体がオレンジ色がかった派手な赤いカニですが、アカテガニに比べると鉗脚の赤味は薄く、赤い部分の面積も狭いです。
本来は海岸の森に穴を掘って棲み、海岸の岩から湧水が染み出している様な場所や、雨水が海に流れ込む様な水路には、かならずベンケイガニがいるのですが、都会ではこういった場所が減っているためか、河口の泥干潟や人工の石垣にも細々と生存しています。
食性は植食性の強い雑食で、照葉樹の森で落ち葉等をよく食べていますが、死んだ魚や昆虫、小動物等も食べている様です。自然下ではアカテガニよりも生臭い場合が多く、またフナムシを捕食しているシーンもよく目にするのでアカテガニよりやや肉食性が強い模様です。
ペットショップ等では、サワガニと同じ扱いで薄く水を張った容器でキープされていることが多いのですが、実際には陸棲傾向が強いです。ベンケイガニ、アカテガニ、またアカテガニと同属のクロベンケイガニ(Chiromantes dehaani)は天然下では陸地をウロウロしていて、採餌も主に陸上で行います。水が必要なのは呼吸に際してと、脱皮の際、いずれも大抵は淡水です。海水に浸かるのは主に繁殖の際になります。
ベンケイガニ科のカニはもちろん肺ではなく鰓呼吸ですが、口器の横に溝があり、その溝と脚の付け根に取水孔のある鰓の間を水を循環させて陸上でも呼吸することができます。興奮して呼吸が早くなったり、水が古くなって粘ついてくると口器からブクブク泡を出します。そうなると体ごと水の中に入り体内の古くなった水を新鮮な水と交換します。
脱皮は完全に水の中で行います。ベンケイガニの大きさにもよりますが、成ガニで年に一回程度。数分で脱皮を完了しますが完全に体が固まるまでには1日ほど掛かります。その間はソフトシェルクラブの状態で非常に無防備なため、飼育するなら単独飼育が原則となります。
飼育下ではニンジン、リンゴ等をよく食べます。時々ザリガニ・ヤドカリの餌等を与えてやるのも良いでしょう。
その他の飼育については後述します。
節足動物門 > 甲殻亜門 > 軟甲綱(エビ綱)> 真軟甲亜綱 > ホンエビ上目 > 十脚目(エビ目)> 抱卵亜目(エビ亜目)> 短尾下目(カニ下目) > イワガニ上科 > ベンケイガニ科 > ベンケイガニ属
ベンケイガニは海岸林の木の根元等に穴居します。同じ様な場所にはアカテガニも棲むことがありますが、ベンケイガニの方が海水(塩分)への依存度が高い様で、海から離れるに従ってアカテガニの方が隆盛となります。
ベンケイガニの警戒心はアカテガニより強い様で、日の高い内にはなかなか姿を現しません。アカテガニの様に道端をノコノコ歩いている様なこともあまりないのですが、森の中や雨上がりの草叢等では、たまに昼間でもウロウロしていることがあります。どこから迷い出たのか、海近くのキャンプ場で炎天下の芝の上を駆け回っているベンケイガニの姿には心が和みます。
遠くから見るとアカテガニと見分けがつきにくいのですが、鉗脚の先の白い部分の面積が大きいことでアカテガニとの違いが判ります。
Googleで「ベンケイガニ」を検索すると、クロベンケイガニをベンケイガニとし、ベンケイガニをアカベンケイガニとする記述が時々見られますが、これは商品名としてのインボイス、または観察者や飼育者の便宜的な呼称だと思われます。
クロベンケイガニはベンケイガニ科アカテガニ属、ベンケイガニはベンケイガニ科ベンケイガニ属なので、黒いベンケイガニと赤いベンケイガニという理解の仕方はあまり本質を表していません。むしろ赤いアカテガニと黒いアカテガニの方が本質に近いです。また、時季にもよりますが、クロベンケイガニとアカテガニは同所的に見られることが多いのですが、そういった場所でのベンケイガニの個体数は偶来と言ってよいレベルで少ないです。
逆にベンケイガニとアカテガニも同所的にみられることもありますが、そういった場所では今度はクロベンケイガニの数が少なくなります。
この3種は繁殖期を除き、
ベンケイガニ=海岸林、山が海に迫っている様な崖や石垣、河口の泥地など。
アカテガニ=海岸林~森、河口域の森林など。
クロベンケイガニ=海に流れ込む水路や河口域の干潟や護岸、下流域(時に中流域まで進出)の護岸や田圃など。
が、主な棲息域になります。
「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」という諺がありますが、海岸付近の陸地をウロウロするカニの中にあって、アカテガニやカクベンケイガニ(Parasesarma pictum)は自ら穴を掘ることはあまりなく、クロベンケイガニは穴を掘ることはあっても泥質の干潟や田の畦等の軟泥質に限られます。砂地にいるスナガニ(Ocypode stimpsoni)の仲間やコメツキガニ(Scopimera globosa)は横向きに潜るため、掘った穴の直径は基本的には甲幅より小さく、また、サワガニ(Geothelphusa dehaani)が穴を掘るのは普段は水の中であり、冬眠時に田の畦などに潜り込むことはあっても穴の口は閉じています。
従って、諺にある“甲羅に似せた穴を掘る”カニとはベンケイガニではないだろうかと筆者は思っています。ベンケイガニは自然の残された海岸で、粘土質の崖に穴を掘ってコロニーを作っていることが多いからです。
半水棲の、例えばクサガメやイシガメの様に、水を張り上陸用の石を置いた様な飼い方がイメージされがちですが、ベンケイガニは基本的には陸地で生活するカニなので、図の様な飼育環境が望ましいです。脚が長く身体も平べったいので脱走は得意ですから、しっかり閉まる蓋が必要です。
陸棲とは言え、鰓呼吸なので鰓が乾くと死んでしまいます。そのため、カニが身体丸ごと浸かれる水場が必要です。また脱皮も水の中でないと行えないので、大きめの水場を常に新鮮な水で満たしてあげましょう。水は海水ではなく淡水です。
この水量では濾過装置を使っても生物濾過の効果は期待できず、またコンセントのリードやホース等は脱走の足掛かりになりやすいので、水を定期的に換える方法が飼育しやすいでしょう。魚や水棲のカニの様に、水の中で採餌・呼吸・排泄を行う訳ではないので、水はそれほど汚れることはなく、1週間~2週間に1回程度の換水または足し水でキープは可能です。
但し、砂は汚れるので定期的な砂の洗浄や交換が必要です。乾いた砂をストックしておき、1ヵ月に一度程度、表面の砂を新しいものと交換。取り出した砂は洗って乾かし、ストックしておくと良いでしょう。
カニは土木工事が好きで、飼育下では飼い主が用意したレイアウトは、必ず掘り起こされ改変を加えられるのですが、ベンケイガニは特にその傾向が強く、原型を留めないほど掘り起こされ、埋め立てられることになります。砂掃除の際、せっかく掘った穴や埋め立てた住処を潰してしまうのが気の毒になるほどですが、次の日にはまた土木工事を開始するので、かまわず定期的な砂掃除を行うと良いでしょう。
また、土木工事には水を大量に消費するので、飼育開始時やレイアウト変更後の一週間前後は、水入れのチェックを特に入念に行ったほうが良いでしょう。
尚、飼育匹数は、1ケースに1匹が安全です。
60cm水槽で、脱皮用の水場を複数設置する、隠れ家を多く設ける等工夫して小型の個体を2,3匹程度なら同居させられますが、1~2年ですぐに大型化する上、脱皮時に水場で食殺された死骸の悲惨さ(臭いもかなりキツイ)はトラウマになるレベルなので、きめ細かく、脱皮の兆候を見逃さず日々のケアができる人か、死骸の姿や臭いにショックを受けないタイプの人にしか複数飼いはお薦めできません。
餌は前述した様に、ニンジン、リンゴ等をよく食べます。時々ザリガニ・ヤドカリの餌等を与えてやるのも良いでしょう。鮭やアジなどの焼き魚も食べますので、時々、食事の際に余ったもの(特に皮)を与えてみてください。また意外ですがパルメザンチーズも好んで食べますので、時々与えてみても良いと思います。
全体的には、野菜を多めに与えてください。
ベンケイガニとアカテガニはよく似ています。茶色っぽいベンケイガニもいますし、真っ赤なアカテガニもいますので、なかなか見分けるのは困難です。
もっとも見分けが付きやすいのは上から甲を見た時。
アカテガニ(写真左)の甲外縁には鋭い切れ込みがありません。甲表面もツルツルした感じです。一方のベンケイガニ(写真右)の甲外縁の眼より少し下に鋭い切れ込みがあります。甲表面もゴツゴツしています。
なかなか無防備に上から観察させてくれることのない両種ですが、ベンケイガニには鉗脚内側(ハサミ脚の手首の様な部分)に鋸条(ギザギザ)があることでも見分けが付きます。
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