俯瞰(ふかん)視点。またの呼び方で「トップビュー」。
いわゆる上から見下ろした画面構成のゲームと言えば、ロールプレイングゲーム(RPG)、縦スクロールタイプのシューティングゲームが特に想像されやすい。
また、前者にアクションゲームの要素を加えたゲームはそのままアクションRPG、もしくはアクションアドベンチャーのジャンル名で呼ばれ、縦横無尽に動き回れるプレイ感、その画面構成だからこそ表現し得たパズル的な要素で高い人気を誇る。中でも任天堂の『ゼルダの伝説』シリーズは、同ジャンルの金字塔的な存在と言えるだろう。
今回はそんな同シリーズに加えて、スタジオジブリ作品への影響も見受けられるタイトル、その名も『Hyper Light Drifter(ハイパーライトドリフター)』をピックアップする。
『Hyper Light Drifter』は、アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置くゲームスタジオ「Heart Machine」制作の2Dアクションアドベンチャーゲーム。2016年3月31日、PC(Windows、Mac、Linux)向けに「Steam」で発売。同年7月には海外先行でPlayStation 4、Xbox One版も発売された。
日本では2017年5月25日、PlayStation 4版がPLAYISMより発売。ダウンロード版に加えて、イラストレーターのコザキユースケ氏がジャケットデザインを担当したパッケージ版も展開された。
さらに1年後の2018年9月6日には、多数の新要素を追加した「スペシャルエディション」がNintendo Switchで発売。そして2019年にはiOSへの移植も果たし、スマートフォン・タブレットで遊べるようになった。
多彩な機種に供給されている本作は、クラウドファンディングサイト「Kickstarter(キックスターター)」にて、2013年に初お披露目されたタイトル。目標額27,000ドルのところ、最終的に60万ドル以上を集める大成功を収め、3年の歳月を経て完成に至った。
内容としては俯瞰視点の2Dアクションアドベンチャーだ。プレイヤーは主人公の「放浪者」となり、何らかの災害によって荒廃した世界を探索していく。最終目標は、放浪者が患った病気を治癒する方法を見つけ出すこと。
詳細は不明ながら、放浪者は過去に経験した”何か”が原因で、時々血を吐き出してしまう重篤な病気を患ってしまっている。この病を鎮めるカギが眠るとされる4つのエリアを探索し、それぞれの最深部を目指すのが主な流れとなる。
4つのエリアはゲーム開始間もない頃から自由に行き来でき、好きな所から探索を始められる。1度足を踏み入れたら2度と出て来れなくなるような制約もなく、探索途上で中断し、別のエリアへ”浮気”するのも容易。プレイヤーの気の赴くまま進めていける、自由度の高い構成になっている。
アクションも単純明快。近接用の剣と遠距離用の銃の2つの武器、高速ダッシュを駆使して敵を倒したり、行く手を阻む障害物を破壊するなりして進めていく。複雑なコマンド操作を求められることもなく、遊び始めてすぐに仕組みが理解できる取っ付きやすさだ。
裏を返すとその分、難易度は高め。探索は自由に移動できる反面、細かいヒントはほぼなし。最深部がどこかは全体マップ上で示されるものの、そこに到達するための道は自力で見つけ出さなければならない。
戦闘も敵の動きが早く、耐久力も高めに設定されているため、簡単に倒せない。集団で襲い掛かってくることも頻繁にある。さらに病気を患っている設定も関係してか、主人公の体力(HP)は低い。最大5回までしか耐えられない。強力な攻撃に限っては、その半分だ。しかも、本作に体力の最大値を底上げする手段はない。成長要素自体は存在するが、アクションの拡張、回復用アイテムの最大所持数を増やす程度なのだ。
そのため、戦闘では敵の攻撃をちゃんと回避し、隙を突いて攻撃していくのが重要。力で押そうとすれば、あっという間にトドメを刺されかれず、かと言って時間をかけて対処しようとすれば、数で押し切られる。そんなメリハリのある設計が施されており、常に気の抜けない駆け引きが繰り広げられるバランスになっている。上手い話に裏ありの作りなのだ。
とは言え、やられても近場から直に再開できるなど、極端な負担は与えないよう配慮されているほか、難易度選択機能もあるので、好みの加減で楽しむ余地はある。それでも、主人公の脆さと自力で道を切り開く部分は据え置き。
アクションアドベンチャーとしての基礎部分は王道の極みであり、複雑な要素も取っ払ったシンプルな作りではある。しかし、先の通りに遊び応えはかなりのもので、腰を据えて挑むことが大事な内容。昔ながらのアクションアドベンチャーと昨今の高難易度のアクションRPG作品の良い所を抽出して組み合わせた仕上がりで、まさに手に汗握る体験を堪能できる1本になっている。
近接の剣と遠距離の銃、そして高速移動こと「ダッシュ」を駆使する戦闘シーンは非常にスピーディ、且つ主人公の弱さも相まって緊張感は相当なもの。何より道中の敵も強く、簡単にやられてくれないので、全く気が抜けない。
エリアの最深部で待ち構えるボスに至っては攻撃も苛烈で、安易に力で押そうとすれば開始数秒で押し潰される。ダメージを与える度、攻撃パターンも変化するので、最初は何度もトライ&エラーを繰り返すだろう。
しかし、次第に安定した立ち回りができるようになっていく、上達を感じさせるバランスで、理不尽さは皆無。負けたとしても、戦闘直前のチェックポイントから開始されるのでリトライも苦でないし、回復アイテムが失われるなどのペナルティも一切ないので、安心してやられ、再挑戦できるのも良心的だ。
何と言っても、上達する度に”蝶のように舞い、鉢のように刺す”華麗な攻撃を決めれるようになっていくのが痛快。次第に戦闘も自分から仕掛けにいくようになったり、やり込めばやり込む度に味が増していく面白さもある。
これと言って斬新な工夫はないものの、アクションゲーム、高難易度のゲーム双方の醍醐味を見事に押さえた仕上がりで、本作のゲームとしての面白さを際立たせる部分になっている。特にボス戦は、これぞアクションゲームな魅力満載、やり応え抜群の内容だ。どのエリアでもいいので、ぜひその容赦ない強さと次第に突破口が見えてくる過程を体験してみて欲しい。
ただ、4つあるエリアの内、北側はゲーム開始間もない頃だと大変な目に遭うので、後回し推奨。
なぜかはそれなりに実力を付けた後に入ってみれば、おのずと分かる……。
基本的には最深部を目指し、進んでいく展開……厳密には「モジュール」と呼ばれる装置を幾つか起動して、閉ざされた扉を開ける展開にどこも終始するのだが、構造が入り組んでいるのに加えて、エリアそれぞれの世界観を反映した仕掛け、敵が登場するのもあって非常に探索甲斐があると同時に飽きさせない。
また、全容を解明せずとも進めるユルさも嬉しい。「モジュール」以外にも「モノリス」、プレイヤーの強化に必要な「ギアビット」と呼ばれるアイテムが隠されていて、見つけ出すことになるのだが、いずれも完全にやり通すかはプレイヤーにお任せ。必要な「モジュール」さえ起動すれば、普通に進めていけてしまうのだ。
とは言え、「モジュール」は”地味に”厄介な所に置かれているほか、その過程で触れれば1発アウトのトラップを突破することも求められたりするので、簡単という訳では決してないが。ただ、いわゆるパズルと言った謎解きは無いに等しく、気になる場所を調べることに徹すればスイスイ進める設計。一方、全容解明となれば、腰を据えて挑まねばならず。
そう言った飴と鞭が表現された構造にまとまっていて、厳しいけど適度に甘くもある独特なマップデザインが全編に渡って敷かれているのだ。やることが「モジュール」の起動に特化されているので、目的意識を見失いにくいのも秀逸。裏を返せば、若干の単調さはあるのだが、エリアごとに風景から細かいイベントまで、きちんと差異を出しているので、あまり気にならない内容だ。この辺の作り込みにも本作はこだわっている。
独特の色使いによって表現されたビジュアルも注目。
スクリーンショットの通り、本作はキャラクターから背景に至るまで、全てがドット絵(ピクセルアート)でまとめられている。インディーゲームでは、よくある作風だが、本作が凄いのは色使い。とにかく”毒々しい”。
かつて”何か”によって荒廃した世界であることを思い知らされる、”血と腐敗”の匂いを錯覚させる仕上がりになっているのだ。フィールド上に無造作に散らばった白骨死体の山、血だまり、そして巨人と思しき者の部位の数々はその象徴で、嫌でもこの世界が病んでいることを実感させられる。だが、それと同時に色鮮やかな自然も描かれ、美しい一面も残している。
綺麗……だが、あまり空気は味わいたくない。
長居はせず、立ち去りたい。
どのエリアもこんな感情を抱かせる風景が満載で、自然と目に焼き付くほどの凄味に満ちているのだ。特に各エリアには決まって地下の施設があって、そこの探索が頻繁に挟まれるのだが、設定が設定だけに内部にはおぞましいものが残されていたりする。
何が残されているのかはその目で確かめてみよう。
(と言いつつ、一例を挙げてしまうが。)
何と本作ではキャラクターとの会話、イベントデモにおいてテキストが使われる場面がない。
全てをイラストやキャラクターの一挙一動で表現している。
なので、何が起きているのかは全て、プレイヤーが想像しながら補完していくことになる。主人公にしたって、病気を患っているのは時折見せる吐血の様子で分かるが、その病気がどんなものかは映像から得られる情報を元に推察するしかないのだ。
これもあって、プレイヤーの解釈によって様々なストーリーが生み出されるのみならず、より深掘りしたい思いから2周目に挑んでみたくなる。だが、どんなにプレイしても最終的にはプレイヤーそれぞれの考えの下でストーリーを総括しなければならない。
あまりにも突き放した仕組みだが、これもあって作中でのイベントの数々は強烈なほど印象に残る。特にオープニングムービーは衝撃的なシーンが連続するに加えて、エンディングも呆気に取られてしまうこと確実な仕上がりなので必見だ。
なお、ストーリー関係のテキストは皆無な一方、チュートリアルなどに関しては僅かに使われている。ただ、それも全編カタカナ表記という特殊仕様。また、ストーリーは一切答えに繋がる情報がない訳ではなく、エリアごとに隠された「モノリス」にその種のものが隠されている。どんな内容かは実際に探索し、見つけ出して確認してみていただきたい。もしかしたら、その情報精査に長時間費やし、気付けば夜中の展開を迎えてしまうかもしれない。(極端な例だが)
全体のボリュームもゆっくり進めて8~10時間程度で、先のストーリーを解読するための周回にも挑戦しやすい。また、先に少し触れたが難易度選択機能も搭載しているほか、クリア後に解禁される特別な難易度(それもかなりの辛口仕様)も用意されているので、極め甲斐は抜群。コアなプレイヤーも大満足間違いなしだ。
また、後発のNintendo Switch版『スペシャルエディション』では新たな剣と銃、特別なダンジョンが追加されているほか、ボス戦だけに挑む「ボスラッシュ」なるモードも追加され、より遊び応えのある内容へとパワーアップしている。さらにJoy-conのおすそわけで、ローカルの協力プレイを気軽に楽しめるようになっているのも大きな見所だ。
もし、これから本作をプレイするのであれば、追加要素多めのNintendo Switch版、またそれに準拠したiOS版がいいだろう。ただ、基本的なゲーム部分の面白さはどの機種であっても変わりなし。
既に最初のPC版発売から4年以上が経過するが、そのスピーディでハードな戦闘シーン、やり応え抜群の難易度、そして独自の色使いによって表現された毒々しくも美麗なグラフィックと世界観、謎めいたストーリーが醸し出す魅力は色褪せず。アクションRPGとアクションアドベンチャー好きはもちろん、雰囲気を楽しむゲームを求める人にもおすすめできる1本だ。謎の病を治癒する方法を求め、荒廃した世界を歩んで真相に辿り着こう。
その末に何を見て、何を得るのかは……アナタの想像力次第。
【ゲーム情報】
タイトル:『Hyper Light Drifter(ハイパーライトドリフター)』 / 『Hyper Light Drifter スペシャルエディション』
発売元・開発元:Heart Machine / PLAYISM / Abylight
対応ハード:PC(Windows、Mac、Linux)、PlayStation 4、Nintendo Switch、iOS
ジャンル:2Dアクションアドベンチャー
価格:1,980円[税別](PC版)、3,980円[税込](PS4パッケージ版)、2,480円[税込](PS4ダウンロード版)、2,500円[税込](Nintendo Switch版)、610円[税込](iOS版)
関連リンク:
■商品&購入ページ:PlayStation 4版(PlayStation Store内)
■マイニンテンドーストア:商品&購入ページ(Nintendo Switch)
Copyright 2016 Heart Machine, LLC. All rights reserved. Hyper Light Drifter and Heart Machine are registered Trademarks.
Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
© 2018 Abylight Studios SA licensed by Heart Machine, LLC. All rights reserved.