西アフリカの民間信仰を起源に誕生し、映画を始めとする娯楽作品への登場と再定義などによって、「人間を襲う腐敗した死体」のイメージが定着した怪物「ゾンビ」。ゲームでもカプコンのバイオハザードシリーズの大ヒットからメジャーな存在となり、多くのゾンビ登場作品が作られた。昨今もその勢いは衰えていない。
今回は、そんなゾンビが大暴れする作品をピックアップ。
その名も『Zombie Night Terror(ゾンビナイトテラー)』だ。
本作はフランスはマルセイユに拠点を置く小規模ディベロッパー「Nclip」制作のゾンビパンデミックストラテジーゲームだ。2016年7月20日にWindows、Mac、LinuxのPC用ゲームソフトとして「Steam」でリリース。後にiOS、Androidのスマートフォン・タブレット版も買い切り型アプリでリリース。
2019年にはNintendo Switch版も発表され、海外版から約3ヶ月半ほど遅れて5月9日、日本語版がリリースされた。
なお、それまで英語にしか対応していなかったPC版も6月21日実施のアップデートで日本語で遊べるようになっている。スマートフォン・タブレット版もまた然りだ。
ちなみにAndroid版は『ゾンビナイトテロ』と名付けられている。
確かに「terror」はテロとも読めなくもないし、その意味もあるが、この場合は恐怖を意味する「テラー」を名乗るのが正確だろう。
とは言え、肝心のゲーム内容は紛うことなきテロ(terrorism)。
非常に乱暴、且つ単刀直入に言おう。
本作はゾンビで人間を殺しまくるゲームである。
プレイヤーは司令塔としてゾンビたちに指示を出し、街中の人間達を食い殺していくのだ。最終的に目標として提示された数の人間を殺しきればミッションクリア。実に分かりやすく、バイオレンスで慈悲まるで無しのゲームとなっている。
ただ、ミッション開始時、ゾンビは街中にいない。
どうすればいいのか?答えは簡単だ。作ればいい。
人間をゾンビ化させる薬をメニュー画面から選び、そのまま直接注射するのだ。
するとアラ不思議、ゾンビの誕生!
そのまま人間を喰らい尽くす本能のまま、暴れ始めるのだ。
ちなみにこの摩訶不思議な薬、「ロメロ」と名付けられている。
ジス・イズ・レジェンド!アイ・アム・レジェンドなら吸血鬼だ!
また、ゾンビが食い殺した人間はそのまま新たなゾンビへと変異!殺せば殺すほど、ゾンビだらけになっていく。ゾンビが増えれば数の暴力に訴える襲撃も可能になるだけでなく、特定地点にある床の破壊も可能に!
しかし、ゾンビは殺傷能力こそ優れど、耐久力は脆い。非武装の一般市民へは比類なき強さを発揮するが、逆に武装したチンピラ、警官、特殊部隊、マフィア、エクソシスト(?)に対しては無力。大抵、襲い掛かる前にやられるデスティニーだ。また、ゾンビには知能がない。「逃げろ!」と指示したくても、本能のまま前進し続ける。
そんな彼らを制御するため、司令塔たるプレイヤーはステージ上にある矢印パネルを動かし、ルートを決めていかなければならない。また、ゲームが進むとDNA注入によるゾンビの進化が可能に。これで行動ルートを指示するゾンビ、その名も「オーバーロード」を生み出し、方向転換させると言ったことも求められてくるのだ。
また、DNA注入は進化ゾンビの誕生に留まらず。全米震撼、バイオハザードもビックリの大ジャンプや高速ダッシュを決めたり、ゾンビを爆発させるなどの特殊なアクションも決めれるようになる。ただ、後者に関しては自滅行為も同然なので、下手に使いすぎれば戦力が減少し、人間への襲撃もままならなくなる。
そんな戦術・戦略的な判断も試されるので、一筋縄ではいかないのだ。ミッションも人間を惨殺すればいいとは言え、道中には地雷を始めとする罠もあるほか、ルートを誤れば人間に”真・ゾンビ無双”を決められる顛末を辿るので、なおのこと。
冒頭に述べた”ゾンビパンデミックストラテジーゲーム”の名は伊達ではなく、ゾンビの特性と本能を活かした攻略が試される、手ごわいゲームに完成されているのだ。まさにゾンビの恐ろしさと脆さを一辺倒に味わえるとも言える内容!合わせて、窮地に追い込まれた人間の怖さも知れちゃう、いかにもな作品に完成されている。
先の通り、ゲームの目的は非常に単純。「ロメロ」を注入してゾンビを誕生させ、残りの人間を殺して殺して殺しまくればいい。そして、ゾンビの軍団を作り上げてゾンビパンデミックを引き起こし、世紀末到来だぜヒャッハー!
……が、しかし。ゾンビの前進し続ける特性、武装した人間への抵抗力の無さなど、多くの弱点を持ち合わせているため、安易な力押しは一切効かない。DNA注入による進化、特殊アクションも有限式なので、乱用すれば逆に打つ手がなくなり、ミッション失敗を招いてしまう。
各ミッションの舞台も広く、入り組んでいる。しかも、時にはアクションゲーム的なタイミング操作(ジャンプしたり、高速ダッシュしたりなど)も要求されるのでなおのことだ。
全体の地形と人間それぞれの位置を把握し、適切なルート、時々DNA注入を行ってゾンビを効率よく動かしていくのが、パンデミック達成へのカギ。まさにストラテジーを謳うゲームならではの戦術・戦略を練る面白さがあり、分かりやすいルールとは裏腹な脳味噌フル回転の展開が味わえる。暴力的、且つ無慈悲なイメージからは想像もつかない本格的なバランス調整には、この手のゲームが好きな人ほど唸ること間違いなし。同時に「こいつらの脳味噌が腐っていなければ……」との恨めしさも抱いてしまうかもしれない。
そんなこと嘆いても仕方がないんですよ。
我ら司令塔たる人間には普通の脳味噌があるのですから。
その強みを活かしてゾンビを使役してまいりましょうね。
本編は章ごとに用意されたミッションを攻略していく、レベル(ステージ)クリア方式で進行。その数、50以上とかなりのボリューム。また、各ミッションにはメイン目標とは別にチャレンジミッションも用意。隠された敵を倒す、規定時間内のクリアを目指すなど、どれも難易度高めのもの揃いで、そちらの攻略も兼ねると相当な密度になる。
ミッションの内容も基本的に人間の惨殺、並びにゾンビ化が中心だが、終始、そればかりではない。目標地点への到達、特殊なゾンビを1体でも外へと追い出す脱出と言った、アクションゲーム及びパズルゲームチックなものも用意されている。
さらに章の最後にはボス戦も。こちらも数の暴力に訴えた戦術と、それを効果的に活かすための状況作りが試される独特な構成になっていて、ストラテジーとアクションが絶妙に融合した戦いを満喫できる。
市街地のみならず、地下道、駅、さらには病院など、色んなロケーションが用意されているのも見所だ。加えて終盤には衝撃的な場が舞台となるのだが……こればかりは実際にその目でご覧いただきたい。本作の多彩さに対するこだわり、そしてゾンビパンデミックが限界地を達した時の恐怖を思い知らされることになる……かもしれない。
人によっては「そんなバカな」と笑う可能性あり。
ここまでのスクリーンショットを見ての通りだが、本作のグラフィックはモノクロのドット絵で描写。ゾンビ、人間は粗めのドットで描写されていて、お世辞にも綺麗、リアルには程遠いものになっている。
だが、どれもアニメーションが滑らか、且つリアクションが生々しい。特に人間はゾンビが現れると悲鳴をあげて飛び上がり、同時に安全な部屋へと逃げだし、隅っこで屈んだ状態になってブルブル震えたり、襲撃直前にも「もうダメだ!」と絶望する様を見せるなど、本当に生きているかのような動きを見せるのだ。ゾンビに襲われる前も仲間とダンスを楽しんだり、談笑する様子をステージのあちこちで披露。場所によっては、チンピラと警官が銃撃戦を始めるなんてことも起きたりする。
ゾンビも普通の道ではヨロヨロ動き、落下時には重力に引っ張られるかのように身体が傾くなど、いちいち生々しい。人間を噛み殺したり、銃撃や近接攻撃を受ける時にも血と肉片がグロテスクな音と共に飛散。もちろん、色は真っ赤っか。モノクロを基調としてはいるが、肝心な所は相応の色で描く徹底ぶりだ。
正直、静止画では伝わらないと思うが、実際に見てみるとそのドットとは裏腹に派手。驚くほど細かい所まで作り込んだ仕上がりになっているのだ。
気になるのなら、紹介動画をご覧いただきたい。
ここまで言っていることがよく分かるはずだ。
そもそも、人間をゾンビへと変異させる薬の名が「ロメロ」で、グラフィックがモノクロ調であることからして、本作が名作と謳われるゾンビ映画、そして昨今のゾンビのイメージを定義した伝説的な人物へいかに敬意を払っているのかが分かる。
また、ゾンビ作品の「あるあるネタ」も網羅。ゾンビ化の薬を作り出した主が典型的なマッドサイエンティストだったり、武装した人間がゾンビの頭を集中的に狙ったり、薄着の女性が多かったり、強そうな特殊部隊が簡単にやられたりなど、コテコテなネタの数々にはゾンビ映画好きならニヤニヤが止まらなくなること確実。大ジャンプに高速ダッシュのアクションなど、昨今のゾンビの傾向を踏まえたネタが取り入れられているのも面白い。
さらに本作は各要素解禁と共にチュートリアルが閲覧できるのだが、これもテレビの臨時ニュース形式というゾンビ作品あるあるなものになっている。ストーリー展開にも絡んだ解説テキストもいかにもなノリなので、好きな人ならニヤニヤしてしまうだろう。
操作性もPC版はマウス、スマートフォン・タブレット版はタッチ&スワイプで、インターフェース周りもそれに準じた作り。いずれも直感的に動かせるのが快適だ。
ただ、最新のNintendo Switch版はJoy-conのポインティングで各種操作を行う、少々難のある形式になっている(特にアクション系の操作が辛い)。システムの関係上、PROコントローラにも対応していないので、そちらで遊べる印象をお持ちならご注意いただきたい。正直なところ、Nintendo Switch版を遊ぶなら携帯モードに絞るのがおすすめだ。こちらなら、スマートフォン・タブレット版同様にタッチ操作でも遊べる。タッチペンがあればさらに安定して遊べるので、そちらを用意しておくのも推奨したい。
また、ここまでの紹介からも察せるが難易度は高め。難易度選択機能ないので、それなりに腰を据えて挑む必要がある。ただ、過度に人を選ぶ作りではなく、チュートリアルは充実しているし、上昇の度合いも理に適っている。戦略を練るのに便利な一時停止機能、やり直す際のリトライも一瞬で可能など、快適性周りも上々だ。
往年のゲーム好きには、かの名作『レミングス』を想起させる本作。実際に『レミングス』のオマージュ(&被る要素)も沢山あって、過去に遊び込んだ人なら懐かしい思いに浸れる仕上がりだ。『レミングス』を知らない人にも、高い戦術・戦略性と凝ったアニメーション、豊富なミッションで強烈に訴えかけてくる出来。やり応えのあるストラテジーを欲しているのなら、ぜひ遊んでみていただきたい傑作だ。
ゾンビの大群を率い、パンデミックを引き起こして人間社会を破滅に追い込もう!
築き上げろ、死霊創世紀!
【ゲーム情報】
タイトル:『Zombie Night Terror』
発売元・開発元:NoClip / Plug in Digital / Good Shepherd Entertainment / CIRCLE Ent.
対応ハード:PC(Windows、Mac、Linux)、iOS、Android、Nintendo Switch
ジャンル:ゾンビパンデミックストラテジー
価格:1,280円[税込](PC版)、1200円[税込](Nintendo Switch版)、860円[税込](Android版)、730円[税込](iOS版)
関連リンク:
■マイニンテンドーストア:商品&購入ページ(Nintendo Switch)
■商品&購入ページ:Android版(Google Play Store)
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