劇場公開のアニメ―ション映画を中心にお送りしている映画のレビュー/感想記事。今回は、「逆詐欺映画」「大人も泣ける」といまTwitterで話題沸騰中のアニメーション作品『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』をご紹介します。
「すみっコぐらし」は、「リラックマ」や「たれぱんだ」などのヒットキャラクターを生み出してきたサンエックスの、いま女の子を中心に最も人気のキャラクターコンテンツ。動物や食べ物などをモチーフにデフォルメされた、部屋の角などの“すみっこ”を好むキャラクター「すみっコ」たちの毎日が描かれます。
このすみっコたちが単にかわいいだけじゃなく、全員ちょっとヒネった設定があるのが面白いところ。例えば「ぺんぎん?」は、身体は緑色で、好物はきゅうり。昔は頭の上にお皿があったけど無くしてしまい、自分が何者なのか探している……というすみっコ。「とんかつ」は、元々豚カツの端っこで、脂肪分が多いため残されてしまい、誰かに食べてもらうのが夢、親友は同じく食べ残されてしまった「えびふらいのしっぽ」というすみっコ。どのすみっコも少し同情を誘うような部分があって、そのいじらしさも人気の理由となっているようです。
そんな「すみっコぐらし」の7周年記念作品として制作された初のアニメーション作品が『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』。すみっコたちが集う「喫茶すみっコ」の地下室で、古い絵本に吸い込まれたすみっコたちが、ひとりぼっちの「ひよこ?」と出会い、一緒に絵本の中の世界を冒険していく物語です。
V6のイノッチこと井ノ原快彦さんと、女優の本上まなみさんのナレーション、原田知世さんが歌う主題歌「冬のこもりうた」にも注目です。
【今日の映画公開スタート】井ノ原快彦、V6メンバーはすみっこ好き!?「センターが嫌いなのかな?」本日11月8日(金)公開の『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』の完成披露試写会で
Twitterでの評判を聞き、本作に興味を持った筆者。すみっコぐらしについての予備知識はほとんどゼロで、「すみっこに居るのが好きなゆるキャラ」といったイメージを持っていました。
映画の序盤で行われるのが、すみっコたちの紹介。ひとりひとりのちょっとヒネった設定がイノッチのナレーションで丁寧に解説されます。「すみっコぐらし」初心者の僕ですが、ここですぐに独特の世界観に引き込まれました。他のすみっコが部屋の角に居ると、自分もそこに居たいのに言い出せないなどの内気な性格も、庇護欲をくすぐります。姿かたちだけではなく、すみっコ同士のやり取りも、もだえてしまいそうなほどかわいい! 長年のすみっコぐらしファンにとっては、大スクリーンで動くすみっコたちの姿はたまらないのではないでしょうか?
すみっコたちの紹介が終わるといよいよ動き出す物語。絵本の中に吸い込まれたすみっコたちを待っていたのは、桃太郎や赤ずきん、人魚姫にマッチ売りの少女などの童話の世界。すみっコたちも気付けば童話の登場人物のコスプレ(?)姿で動き回ります。この辺りは、元の童話を題材にしたショートアニメ集のような雰囲気で、本来の物語からズレていく展開が笑いを誘います。そのうち、別々の童話の世界が繋がっていることに気付くすみっコたち。
しばらくしてすみっコたちは、ひとりぼっちのひよこ?と出会います。自分がどこから来たのか分からないひよこ?に、ぺんぎん?は仲間意識を持ち、一緒にひよこ?のおうちを探すことに。他のすみっコたちも協力します。
果たしてひよこ?の正体とは? そしてすみっコたちは無事元の世界に帰れるのか? というのが、大きな見どころとなっています。
それぞれの童話の世界では“おおかみ”や“おに”などの悪役キャラクターも登場するのですが、こいつらがこれまたかわいい。食べられそうになったことを喜ぶとんかつを見て、食べようとするのを止めてしまうおおかみなど、“優しい世界”に心を打たれます。イノッチと本上まなみさんの、すみっコたちを温かく見守るようなナレーションも、思わず感情移入させられてしまう理由のひとつ。
また、別々の童話の世界を行き来する方法も「絵本の世界」ならではのユニークさ。終盤に明かされる物語上のギミックも、この絵本の世界ならではもので、話運びに統一感のある非常に丁寧なストーリーだと感じました。
そうして積み重ねた伏線やキャラクターたちが紡いだ絆が、終盤で見事に結実する演出は、「大人も泣ける」という評判も納得の、感動的なもの。この辺りはぜひ実際に劇場で観て、確かめていただきたいと思います。
『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は妥協なく丁寧につくられた感動的な作品でした。もし自分を「ひとりぼっち」だと感じることがある方ならば、大いに勇気をもらえる物語でもあったと思います。
ただ、子どもたちに楽しんでもらうためにつくられた作品が大人の心も打つのは、何も不思議なことではありません。本作は「大人こそ観るべき映画」というよりは「子どものために本気でつくられた映画だから、大人も感動できる」というのが実際のところではないでしょうか。
「すみっコぐらし」がお好きな方や気になっている方はもちろん、子どもの頃に観た絵本や、そこで描かれる“優しい世界”が好きだったという方、感動できる映画を探しているという方にも、ぜひ一度観ていただきたい作品です。
11月8日(金)より全国の劇場にて上映中!
ある日すみっコたちは、お気に入りのおみせ「喫茶すみっコ」の地下室で、古くなった一冊のとびだす絵本をみつける。
絵本を眺めていると、突然しかけが動き出し、絵本に吸い込まれてしまうすみっコたち。絵本の世界で出会ったのは、どこからきたのか、自分がだれなのかもわからない、ひとりぼっちのひよこ・・・?「このコのおうちをさがそう!」新しいなかまのために、すみっコたちはひとはだ脱ぐことに。
絵本の世界をめぐる旅の、はじまりはじまり。
ナレーション:井ノ原快彦、本上まなみ
原作:サンエックス 監督:まんきゅう 脚本:角田貴志(ヨーロッパ企画)
美術監督:日野香諸里
アニメーション制作:ファンワークス
©2019 日本すみっコぐらし協会映画部