劇場アニメを中心にお送りしている映画レビュー。17回目となる今回は、『秒速5センチメートル』、『言の葉の庭』、『君の名は。』などを手掛けた新海誠監督最新作『天気の子』のレビュー/感想をお送りします。
邦画興行収入歴代2位を記録した大ヒット作、『君の名は。』(2016年)から3年。ついに公開された新海誠監督最新作『天気の子』。物語は家出少年の森嶋帆高が「100%の晴れ女」とインターネットで噂されている不思議な力を持つ少女・天野陽菜と出逢い、“天気”にまつわる世界の秘密を知るというもの。新海監督がこれまでも繰り返し描いてきた“ボーイミーツガールもの”ではあるものの、新たな挑戦の決意を感じられる野心作となっています。
主人公となる帆高と陽菜の声を演じるのは、2000人を超えるオーディションによって選ばれた醍醐虎汰朗さんと森七菜さん。また、東京で帆高の面倒を見る男性・須賀圭介を小栗旬さん、須賀の事務所で暮らしている女性・夏美を本田翼さん、帆高を追う中年刑事を平泉成さんが演じるなど、主演ふたりを取り巻く豪華な俳優陣にも注目です。
キャラクターデザインは田中将賀氏、音楽はロックバンドのRADWIMPSと、『君の名は。』でお馴染みのスタッフに加え、作画監督は数々のジブリ作品や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』シリーズに携わった田村篤氏、美術監督は『言の葉の庭』でも雨の日の新宿を印象的に描いた滝口比呂志氏が名を連ねています。
雨の日は気が滅入る。晴れの日はそれだけで嬉しくなる。そんな経験は誰にでもあるはず。『天気の子』はこの「天気」という共感性が高いテーマを軸にしながら、誰もが共感できるとは限らない「賛否両論」になるであろうラストへと突き進んでいく挑戦的な作品となっています。
家出して身一つで東京にやってきた帆高は、住む家も仕事も確保できないまま帆高は途方に暮れます。雨の止まない東京で、何度もずぶ濡れになる帆高。思いがけず雨でずぶ濡れになったとき、僕はちょっと惨めな気持ちになるのですが、この経験もあって帆高の辛さが身に染みるようでした。
その後、紆余曲折を経て彼は須賀の事務所兼自宅に転がり込むみます。このパートでは帆高が東京の生活に慣れていく様子が結構な時間を使って丹念に描かれていくのですが、相変わらず雨は止みません。この“溜め”があるからこそ、ヒロインの陽菜が天候を操って街が晴れ渡っていくシーンのカタルシスは並々ならぬものがあります。
新海作品の舞台になった場所の実際の写真などを見たことがある方はご存知かと思うのですが、彼の作品に登場する街並みは、フィクションのフィルターを通すことで現実の何倍にも美しく描かれています。このただでさえ美しい街並みに陽の光が差し込み、街全体の色調が鮮やかに変わっていく奇跡のような光景は圧巻です。
それぞれに孤独を抱えた帆高と陽菜が次第に心を通わせていく様子はまさに親の顔より見た新海節。かなりコミカルなタッチで描かれている点は『君の名は。』以後の作品らしい部分です。しかもふたりだけの世界の秘密を抱えているという中学生の妄想のような関係性はこそばゆさもありますが、不思議と嫌な気持ちにはならず、微笑ましく見守ることができました。
ふたりが様々な人を笑顔にしていくシーンは、時折晴れ間を覗かせるようになる作中の天気と呼応して多幸感に満ちたもの。しかしそのままハッピーエンドとは行きません。目まぐるしい展開を経て帆高と陽菜が辿り着く結末は、『君の名は。』とは全く違った余韻をもたらします。しかしどちらも強い希望を見いだせる結末である点では通じているのです。
思えば辛い結末と言われがちな『秒速5センチメートル』も含め、新海監督はこれまでも勇気を持って未来へ踏み出す人々を描き続けてきたように思います。信じ難いニュースも多く、何が正しいのか、何をすれば報われるのかも分からなくなりがちなこのご時世に、それでも「自分の世界を変えられるのは自分だけ」だということを、『天気の子』はいまだからこそ共感し得る方法で伝えようとしているのでしょう。
これまで通りの新海作品を期待した方の中には予定調和を逸脱したストーリーを受け入れられない方もいるかもしれません。しかし歴史的大ヒットを経てなお、優等生的な作品をつくるのではなく、共通した作家性は示しつつも、賛否両論も覚悟の上で全く新しい作品にする道を選んだ新海誠監督。いまだからこそ多くの方に劇場に観に行ってほしい、そして観に行った方同士でたくさん語られてほしい作品です。
新海誠監督自らが執筆した『小説 天気の子』。映画のストーリーを活字で楽しめるこの小説は、BOOK☆WALKER、Amazon Kindleストア、Sony Reader Storeのいずれかで電子書籍版を購入すると、スペシャルメッセージ動画を視聴することができます(特設ページで購入時に送られてくるシリアルコードを入力することで視聴できるようになります)。
ここではこの動画の内容をご紹介します。
動画は6分16秒あり、新海誠監督と、森嶋帆高役の醍醐虎汰朗さん、天野陽菜役の森七菜が出演。醍醐さんと森さんがアニメと小説で同じ物語を表現する際の表現の違いやそれぞれの影響などについて質問し、新海監督がこれに答えるといった内容になっています。
マルチな才能を持つ新海監督の創作術への理解を深めることができ、主演俳優ふたりと新海監督の仲が良さそうな雰囲気も楽しめる、ファンならば観て損はない映像となっているので、小説版を購入予定の方は、電子書籍版での購入をおすすめしたいと思います。
2019年7月19日(金)より全国の劇場にて上映中!
上映時間:114分
【スタッフ】
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
製作:「天気の子」製作委員会
制作プロデュース:STORY inc.
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:東宝
【キャスト】
醍醐虎汰朗
森七菜
本田翼
吉柳咲良
平泉成
梶裕貴
倍賞千恵子
小栗旬
(C)2019「天気の子」製作委員会