本連載はこれまで、現行の家庭用ゲーム機で発売されたタイトルを中心にピックアップしてきたが、そろそろここでスマートデバイス(スマートフォン、タブレット)にも視点を移そう。とは言え、今回取り上げるゲームは元々、家庭用ゲーム機(携帯ゲーム機)で産声をあげた作品、『ユグドラ・ユニオン』なのだが。
『ユグドラ・ユニオン』は2006年3月23日、ゲームボーイアドバンス用ゲームソフトとしてスティングより発売されたシミュレーションRPG。後にニンテンドーDS用ゲームソフト(及びPlayStation Portable用ゲームソフト)として発売された、アクティブ・タクティカルRPG『ナイツ・イン・ザ・ナイトメア』を機に誕生した、「Dept. Heaven Episodes(デプト・ヘヴン・エピソード)」シリーズ(通称D.H.E)の2作目に当たる。
本作はゲームボーイアドバンス版の後、2008年1月24日にグラフィックの強化とシステム改良、ボイス演出導入を施したPlayStation Portable版が発売。さらにそれから11年の時を経た2019年4月25日、iOS、Android向けのスマートデバイス版も発売された。
本記事では、最新のスマートデバイス版も含む、全機種版を対象に紹介する。
大陸世界の中央に位置する「ファンタジニア王国」。神々の血を受け継いだ王家の一族と何代にも渡る賢王の治世により、豊かで安定した時代を築き上げてきたこの国に、新生ブロンキア帝国の若き皇帝「ガルカーサ」率いる軍が侵攻。その圧倒的な武力の前に広大な土地と民は蹂躙され、ついには国王も討たれ、王都「パルティナ」は陥落の一途を辿った。
そんな中、陥落寸前の王都より脱した王女「ユグドラ」は、王国最後の希望を手に、大陸南端の辺境の地へと辿り着く。そこで出会った、盗賊団を率いる少年「ミラノ」と共に、祖国奪還に向けた帝国との戦いに身を投じていくことになる。壊滅した王国軍を立て直し、ユグドラはガルカーサ率いる帝国軍から王都を取り戻せるのか……?
内容はプレイヤー→敵の順に駒(ユニット)を動かし、マップを移動しつつ、戦闘を仕掛けるなりして勝利条件の達成を目指すターン制のシミュレーションRPGだ。敵国に奪われた祖国を奪還する定番のあらすじの時点で、大体お察しの通りである。
だが、本作はほかのシミュレーションRPGと一線を画すシステムを多数実装。プレイスタイルこそジャンルの基本に忠実だが……それ以外の部分をひと言でいうなら、鋭いぐらいに尖っている。
まずターンごとの流れだが、「タクティクスカード」と呼ばれるカードを一枚選択してから始まるようになっている。「タクティクスカード」は簡潔に言えば、行動制限をプレイヤーに課すもの。カードには「Mov.」という値が設定されており、その範囲内でしか、出撃しているユニットを動かせないのだ。
つまり値が「12」のカードなら、ひとりのユニットを6歩動かしたら、ほかのユニットはあと6歩しか動かせない。逆にひとりのユニットを12歩動かしてしまえば、ほかのユニットは一歩も動けずに終わるのだ。そのため、値をやりくりしながらユニットを動かしていくことになる。一歩でも動かしでもすれば、値が消費されるので、慎重に判断して動かすことが求められる。
また、一回動かして待機させたユニットは後から再度動かすことも可能。ほかのユニットを動かして値が余ったら、すでに動かしたユニットに割いて、待機場所を変えてもいいのだ。このため、一回動かして待機させたら、つぎのターンになるまで動かせないほかのシミュレーションRPGとは一風どころか、相当変わった戦術が駆使できるようになっている。
カードは移動制限以外にそれぞれの種類に応じた「スキル」、いわゆる必殺技を戦闘中に発動させ、敵にステータス異常(麻痺など)を付与したり、追加ダメージを加えることもできる。ただし、戦闘時に攻撃行動を抑える「パッシブ状態」になると溜まる「スキルゲージ」が満タンに達したときにしか使えないという、ちょっとした制約がある。また、カードに記された武器のアイコン(剣、斧など)に合致したユニットでなければ、使うこともできない。
先んじてしまったが、戦闘もかなり特徴的。集団対集団の戦いで、どちらかが全滅すれば敗北となる。だが、敗北してもユニットが倒されることはなく、「部隊士気」というユニットごとに設定された体力が減る。何度か戦闘を仕掛け、この値がゼロになればようやくユニットは倒されたことになって、マップから消滅するという仕組みなのである。
さらにターンごとにプレイヤーも敵側も攻撃は一回しか仕掛けられない。戦闘が終わったら、あとは残りの「Mov.」に応じてユニットを動かすこと以外、やることがなくなってしまう。そして、戦闘を仕掛けたユニットはその場に灰色で表示され、次のターン開始まで動せなくなる。Mov.が残っていても、ビクともしないのだ。
極めつけ、敵軍は一体ずつの各個撃破を心がけていくと、ほぼ確実にターン制限を迎えてゲームオーバーになる(※最序盤を除く)。
そんな時に重要なのが「ユニオン」。戦闘を仕掛けると、ユニットの周辺に「×」「+」のラインが表示。これに重なるようにほかのユニットを置けば、一体の敵に対して二回連続戦闘を仕掛け、勝利が重なれば大ダメージを与えられるのだ。
もちろん、これは敵も同様。敵側もライン上にほかのユニットが重なっていれば、戦闘が連続発生。1対2なら、プレイヤー側のユニットが2回連続戦闘に、2対2であれば、それぞれの2番手同士が戦うという具合に、戦闘の流れも大きく変わるのだ。これを活用する形で、本作は戦闘をこなしていくことになる。
ほかにも武器ごとの相性とそれによる戦闘結果の変動、スキル発動による地形の変化、使い込むたびに攻撃力が上がっていくカードの仕組みなどの多くの独自要素を搭載。ここまでの解説だけでも嫌というほど思い知ったかもしれない。
一線を画すにもほどがある!……と。
まさに鋭く尖ったシミュレーションRPGなのである。どれだけ尖っているかは、オリジナルであるゲームボーイアドバンス版が発売されて以降、今日に至るまで、類似するシステムを持つ作品が全く出てきていないことからも察せるはずだ。
◇唯一無二、鋭く尖りながらも実は良心的な各種システム
もはや語るまでもないが、本作の魅力はこのほかに類を見ないゲームシステムのすべてだ。しかも、難しそうな概略とは裏腹に非常に良心的な作り。
というのも、本作はゲームの進みに応じて段階的に各種システムが解禁されていく、チュートリアルを兼ねた構成になっているのだ。しかも、新たな要素が解禁されたときには、かならず詳細な解説コーナーが挿入されるので、遊びながら個々の特徴を学んでいける。実の所、説明書を読まずとも遊べてしまう程度にハードルは低いのである。
とはいえ、ほかの一般的なシミュレーションRPGとはターンの仕組み、戦闘のルールなどがもの凄く独特。最初はどう戦えばいいのかでゲームオーバーを重ねてしまうかもしれない。
しかし、そんなプレイヤーにも配慮して……(続く)
◇実は良心的な難易度。スマートデバイス版ではさらなる配慮が!
(続き)ゲームオーバー後にリトライすると、マップの最初からやり直しにはなるが、敵の体力(部隊士気)が半分に減少、それまでのユニットごとのレベル、戦闘勝利で得た経験値を引き継いだ低い難易度で再開できる救済措置が設けられているのだ。なので、辛抱強く挑めば、いずれは確実な突破口が切り開けるバランスになっている。
最新のスマートデバイス版では、シミュレーションRPGが苦手なプレイヤーを対象にした低難易度「イージー」も追加。加えて、ターンごとの結果がオートで複数の専用ファイルに自動で記録されるシステムも追加され、より気軽に楽しめるようになっている。
標準難易度もシステムを理解できてない頃は、戦闘で敗北を繰り返しがち。だが、慣れると今までの失敗は何だったのかと言わんばかりにサクサク進むバランスになっている。いわゆる、あらゆる場面に対応できる強いユニットも複数体用意されているので、その人物を切り込み隊長とする形で力押すという、やや大味な戦術に頼れる余地もある。
ひと言でまとめれば「案ずるよりも生むが易し」。
実際に遊んでみれば、意外な遊びやすさに驚かされるはずだ。
ただ、オリジナルのゲームボーイアドバンス版は、ユニットを回復する手段が限られているなど、比較的高めの設定になっているので事実上の例外。PlayStation Portable版以降のバージョンはその辺りが解消され、適切な難易度に再調整されている。
◇抜群のテンポ
これもオリジナルのゲームボーイアドバンス版は対象外となる。
PlayStation Portable版以降には戦闘シーンの高速化機能が新規に追加されており、よりスピーディにゲームを進めていけるようになっている。場面が切り替わる際のロードも皆無で、まったくもたつかない。
最新のスマートデバイス版ではこの部分がさらに強化され、5段階の速度設定ができるように。最高の5倍の速さたるや、まさに疾風のごとく。それでありながら、ちゃんとプレイヤー側が操作するタイミング(パッシブとアクティブの切り替え、スキル発動など)が計れる余地が設けられているのも結構凄い。
◇可愛いキャラクターデザインに似合わぬ重いストーリー
キャラクターデザインは2019年現在では共に連載が終わってしまったが、『GA 芸術家アートデザインクラス』、『棺担ぎのクロ。〜懐中旅話』で知られ、昨今では『きららファンタジア』のオリジナルキャラクターデザインで知られる漫画家でイラストレーターのきゆづきさとこが担当。氏ならではの特徴的、且つ可愛らしいキャラクターが多数登場する。
………が、肝心のストーリーは戦争を題材にしているだけあって重め。さらに中盤終わりからは、主人公のユグドラが敵国のブロンキア帝国へと攻め込むエピソードが中心になるのだが、率直に言って、ドン引きするほど壮絶な”無双劇”となる。すべてを終えたとき、多くのプレイヤーは主人公のユグドラを尊敬と畏怖の念を込め、こう呼ぶようになってしまうだろう。
”覇王”……と。
エンディングまでの所要時間は早ければ12〜15時間程度と、この手のジャンルにしては短め。ただ、各マップで手に入るアイテム、それに関連付いた特殊イベントの回収などのやり込み要素が用意されているほか、エンディングの分岐もあるので、2周目以降も楽しめる盛り沢山な内容になっている。
システム周りの癖が強く、理解するまではハードルの高さを感じやすいほか、完全ランダムで発生するのに加え、喰らってしまえば敗北確定になる理不尽気味なクリティカル攻撃、強弱の激しいユニット間の能力差など、欠点も様々。また、本作にはちょっとした寄り道イベントがあるのだが、それが諸々の事情によって規制されているのも………いや、こればかりは止むなき措置と言っておこう。ちなみに海外のゲームボーイアドバンス、PlayStation Portable版だと規制が無くなっている。興味があれば見てみるのも一興だ。だが、社会的に殺されることになっても当方は一切責任を負いませんからね!
不穏な一文を綴ってしまったが、良いゲームであるのは確固たる事実だ。スマートデバイス版発売により、昨今はお求めになりやすい価格で遊べるようにもなったので、ぜひ、この唯一無二のシミュレーションRPGを体験してみよう。
「寄らば、斬ります!」
【ゲーム情報】
タイトル:『ユグドラ・ユニオン』
発売元・開発元:スティング / アトラス(※PlayStation Portable版)
対応ハード:ゲームボーイアドバンス、PlayStation Portable、iOS、Android
ジャンル:タクティカルRPG
対象年齢:A(全年齢対象)
価格:5,800円[税別](ゲームボーイアドバンス版) / 2,376円[税込](PlayStation Portable版) / 1800円(iOS、Android版)
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