“平成”が終わり、数日後には“令話”が始まろうとしている今日このごろ。個人的に「平成だからこそ生まれた名作」として思い浮かぶアニメのひとつに、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』があるのですが、この作品を手掛けた原恵一さんの新たな監督作『バースデー・ワンダーランド』が本日2019年4月26日(金)より全国の劇場にて上映されています。
平成を代表する名作を生み出した監督は、平成最後にどんな物語を描き出したのでしょうか? さっそく鑑賞してきたので、本作の感想をお届けしたいと思います。
『バースデー・ワンダーランド』は柏葉幸子さんの小説『地下室からのふしぎな旅』(講談社青い鳥文庫)を原作としたファンタジー作品。小学六年生のアカネは自分に自信がない女の子。悪い子じゃないけれど、クラスメイトが友達を仲間はずれにしているのを見ても、そのことを注意する勇気は持てない、そんな女の子です。誕生日の前日、学校に行くのが嫌になってしまったアカネは、母親に頼まれて叔母のチィが営む骨董屋を訪れます。ここである商品に触れたことをきっかけに、骨董屋の地下室は別の世界と繋がってしまったのです! 地下室から現れた錬金術師を名乗るおじさん・ヒポクラテスと、その弟子の妖精・ピポは、「私たちの世界を救ってほしい」とアカネに懇願します。好奇心旺盛なチィは別世界に向かうことに乗り気な様子。彼女からの後押しもあってアカネはしぶしぶ地下室へと向かいます。内気な少女の冒険が、いまはじまるのです!
監督の原恵一さんは『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』の監督を務めたあと、『河童のクゥと夏休み』(2007年)、『カラフル』(2010年)、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2015年)といったオリジナルアニメ映画も監督し、2013年には『はじまりのみち』で実写映画の監督デビューも果たしています。脚本は『カラフル』、『はじまりのみち』、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』でも原恵一監督とタッグを組んだ丸尾みほさん、キャラクターや美術などのデザインは監督が画集を見てひと目惚れしたというロシアのイラストレーター、イリヤ・クブシノブさんが担当しています。
主人公・アカネの声を演じる松岡茉優さんは、実写映画では『万引き家族』や、主演を務めた『勝手にふるえてろ』での活躍が記憶に新しい実力派。アニメ作品では『映画 聲の形』で主人公、石田将也の小学生時代の声などを演じています。杏さんや麻生久美子さん、市村正親さんなどの実写作品を中心に活躍する俳優陣と、東山奈央さん、藤原啓治さん、矢島晶子さんら声優を本職とする方々が混在するキャスティングも本作の特徴です。
まず本作を観ていて心惹かれたのはキャラクターも背景も含めたトータルのビジュアルの魅力でした。異世界の景色も魅力的ですが、アカネの自宅やチィが営む骨董屋のビジュアルまでもが息を呑むほど美しく、特にアカネの自宅の、開放的なリビングのつくりは良い意味で浮世離れしており、この映画がこれからどんな景色を見せてくれるのかと期待が高まります。
異世界に行ってからは、世界の生命の源である“命の水”の力を復活させるため、バラエティ豊かなロケーションを旅することに。地図を頼りに広大な大地を車で横断し、それぞれ全く異なった景色の街を転々としていく展開は、ワールドマップを広げながら冒険していくファンタジーRPGのよう。けれど旅の最中に起こるアクシデントの数々は、アニメーションならではの躍動感が楽しめるものばかり。現実にはいない生き物が生息していたり、魔法が当たり前に存在する世界で、キャラクターたちのアクションや演技はリアリティを重視したものになっているため、不思議な世界にも関わらず実在感を伴った描かれ方がとても魅力的に思えました。何度かある食事シーンの食べ物も本当に美味しそう。
旅の中でアカネは「ザン・グとドロポ」という行く先々で悪さをするふたり組と敵対するのですが、彼らが悪事を働く理由も物語上、重要な意味を持っています。冒険を通して描かれるのは、「勇気を持って一歩を踏み出すことの大切さ」。ヒポクラテスが錬成した、着用者が消極的な行動を取ろうとしたときに嫌でも積極的な行動を取らざるを得なくなる「前のめりのイカリ」という魔法のネックレスがキーアイテムになっていますが、旅を続けるうちに、いつしかアカネはこのネックレスに頼らずとも前のめりな選択ができるようになっていきます。そんな選択の数々が実を結ぶ終盤のとある場面では優しい感動があなたの胸を包み込むことでしょう。
ファンタジー世界での大冒険を通して「踏み出す勇気」を手に入れたアカネ。僕たちが過ごす現実世界には、そんな経験ができる、都合の良い“異世界への扉”なんて存在しないと思うでしょうか? 僕たちの世界には、この作品のような「踏み出す勇気」をくれる物語(フィクション)がたくさん存在します。映画や小説、はたまたゲームなどから様々なことを学んで、大人になった方は多いはず。それらのひとつひとつが、僕たちにとっては“異世界への扉”だったのではないでしょうか? そんな、僕たちの住む世界とは違う世界から、勇気をもらった経験のある方にとって、本作は大切な作品になるかもしれません。GWは映画館に足を運んで、本作を鑑賞してみてはいかがでしょうか?
・原恵一監督のファン
・松岡茉優さんのファン
・ファンタジー世界や美しい景色が好きな方
・女の子が成長していく作品が好きな方
・勇気をくれる物語を探している方
■milet「Wonderland」MUSIC VIDEO 映画『バースデー・ワンダーランド』
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©柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会