ついに上映が始まった『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』。深夜アニメのファンに絶大な支持を受ける京都アニメーションが、近年特に力を入れて制作しているシリーズの完全新作劇場作品ということで、Twitterでも本作の公式ハッシュタグ「#anime_eupho」が1日中トレンド入りを続けるなど、注目度の高さが伺えます。今回は個人的にも非常に楽しみにしていたこの作品の感想をお届けいたします。
武田綾乃が書く同名小説シリーズを元にした、京都アニメーションが制作するアニメ作品である『響け!ユーフォニアム』は、北宇治高校の吹奏楽部に入部した“黄前久美子”(CV:黒沢ともよ)を中心とした、吹奏楽部員たちの青春群像劇。
TVシリーズの1、2作目の久美子は高校1年生。彼女が北宇治の吹奏楽部で過ごす最初の1年間が描かれました。これらTVシリーズに新規カットを追加した総集編が『劇場版 響け!ユーフォニアム ~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』、『劇場版 響け!ユーフォニアム ~届けたいメロディ~』の2作。
今回ご紹介する新作『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』は、2年生に進級した久美子たちの奮闘が描かれます。監督はTVシリーズ同様、石原立也。また本作と同じ時期の、北宇治高校吹奏楽部3年生、“鎧塚みぞれ”と“傘木希美”を中心とした心のふれあいを描いたのが、2018年に公開された山田尚子監督のスピンオフ作品『リズと青い鳥』です。
『響け!ユーフォニアム』アニメシリーズ作品一覧
【TVシリーズ】
『響け!ユーフォニアム』
『響け!ユーフォニアム2』
【劇場作品】
『劇場版 響け!ユーフォニアム ~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』
『劇場版 響け!ユーフォニアム ~届けたいメロディ~』
『リズと青い鳥』
『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』
まず『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』(以下『誓いのフィナーレ』)を鑑賞するにあたっての事前準備として、スピンオフ作品『リズと青い鳥』は先に観ておくことを強くおすすめします。『誓いのフィナーレ』と『リズと青い鳥』はコインの表と裏。『誓いのフィナーレ』の裏でふたりの少女に起きた変化は、北宇治高校吹奏楽部の奮闘とその結末から受ける感動を、一層味わい深いものにしてくれます。もちろんその他の過去作も観ておくに越したことはありませんが、TVシリーズでの出来事は作中たびたび回想シーンで触れられるので、未視聴だとしてもキャラクターの心情を読み取れないことはないはず。最優先は『リズと青い鳥』と考えて間違いないでしょう。
過去作で、全国大会を目指せる部になるため、厳しい練習に明け暮れる活動方針を選んだ北宇治高校吹奏楽部。今回もこの方針が続くことになり、またあの「部内オーディション」が行われます。新たに久美子たちの後輩として入部してくる後輩たちは、腹に一物を抱えた曲者揃い。思春期の不安定さや自意識、過去のトラウマなどを抱えた後輩たちを、少し成長した久美子たちが迷いながらも導きます。特に3年生になって責任ある立場となった吉川優子部長、中川夏紀副部長たちの成長は、過去作から観てきた方には感慨深いものがあるはず。1作目に続いて「勝ちにこだわる部活」特有の普遍的な悩みが今度は新1年生を中心に描かれますが、昨年の出来事を経た久美子や夏紀の想いは、少しずつ1年生たちにも伝わっていきます。この地に足の着いた青春ドラマが演奏シーンによって実を結ぶカタルシスは『響け!ユーフォニアム』シリーズ共通の魅力。演奏シーンのためにもこの作品はぜひ映画館で鑑賞してほしいと強く感じました。
TVシリーズの時点で美しかった背景や人物作画はさらにディテールが細かいものに。それ以外のTVシリーズとの差異としては、「久美子のモノローグがない(少しはあったかも。記憶違いだったらすみません!)」点と、「スマホの動画で撮影したようなカットが時折差し挟まれる」点が挙げられます。前者によって久美子の主観による物語という印象は薄くなり、後者は久美子以外の人物の主観を取り入れることで、吹奏楽部の雰囲気をより多面的に感じることができるようになっています。過去作より「一歩引いた視点」と、「新しい視点」が与えられたことで、ますます「部員全員が主役」と思える作品に仕上がっているのではないでしょうか。間違いなく現時点でのシリーズの集大成として、多くのアニメファンに観ていただきたい作品と言えるでしょう。
一方で、春から夏に掛けての「吹奏楽部」の大所帯を群像劇として描くには、100分という上映時間は非常に短いと感じました。その分とても密度の濃い作品となっていますが、この中で描かれる無数のドラマは、作品内で明確な“結末”や“結実”を得たものの方が少なかったと思います。なので、本作に全ての展開が意味を持ち、それらがひとつ残らず回収されるような「ひとつの作品としての収まりの良さ」を求めるならばそれは叶わないでしょう。しかしそこで久美子や1年生たちが得た教訓や悔しさは、確実に彼女たちのその後の青春の糧となり、物語はこれからも続いていく……そんな、未来へと想いを馳せることができる構成も、『響け!ユーフォニアム』らしいものだったと思います。最後にTVシリーズで繰り返されたあの言葉を拝借しましょう。
「そしてまた、次の曲が始まるのです!」
・『響け!ユーフォニアム』シリーズが好きな方
・『リズと青い鳥』が好きな方
・青春群像劇が好きな方
・音楽をテーマにした作品が好きな方
■『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』特報
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©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会