ダウンロード販売の定着により、パッケージの形態を取らない新作も誕生するようになった昨今のゲーム市場から、特別な一本をピックアップする連載特集「ゴールデンゲームハンマー」。第三回となる今回は、件のダウンロード界隈に目を向ける形で、Nintendo Switch用ソフト『シャンティ -海賊の呪い- for Nintendo Switch』を紹介する。
本作は、アメリカ・カリフォルニア州バレンシアに拠点を置く開発会社「WayForward Technologies」制作による、アクションアドベンチャーゲーム。シリーズ三作目にして、日本国内においては最初のシャンティである。
初代『シャンティ(Shantae)』は、2002年にゲームボーイカラー専用ソフトとしてカプコンUSAより発売。日本語版は出なかったが、洗練されたゲームシステムと手応えのある難易度、繊細なドット絵などの特徴から、コアなプレイヤーの間では知る人ぞ知る傑作として知られていた。後に動画サイトの台頭、PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で本作のWindows版(※日本語非対応)を購入できるようになったことから、次第にその存在が知れ渡るように。
そして2015年11月19日、インターグロー(現:オーイズミ・アミュージオ)より待望の日本語ローカライズ版がニンテンドー3DS向けに発売された。
翌年の2016年3月16日には、Xbox One版(※こちらの販売はWayForward Technologies)が、9月7日にはPlayStation 4、WiiU版が発売。
このNintendo Switch版は、それらに続く五本目となる。
手短に主人公「シャンティ」について紹介すると、ジーニー(※中東伝承に登場する煙の精霊「ジン」の別称)の母を持つ少女。ダンスを踊って魔法を解き放ったり、動物の姿に変身したりする特殊な力を持つ。しかし、前作(シャンティ リスキィ・ブーツの逆襲)での女海賊「リスキィ・ブーツ」との戦いの末、彼女はそれらの力全てを失ってしまった。
本作のストーリーはその続きに当たり、力を失ったシャンティが太古の昔に封じられた巨悪「海賊王」の復活を阻止するべく、前作で敵対したリスキィと共に、復活に関係する「悪の巣」を巡る冒険へと旅立つという内容になっている。
続きモノという点でハードルが高いが、「前作でシャンティは魔法を使えなくなった」、「シャンティとリスキィは元々敵同士」という最低限の設定を覚えておけば十分。より楽しみたければ、先述の前作をプレイしておくとよいが、そうせずとも難なく遊べる設計だ。
ゲームは探索型の構成で、拠点の「スカットル・タウン」を含む、7つの島をリスキィと共に巡りながら進めていく。島ごとの最終目標は「悪の巣」と呼ばれるダンジョンへと潜り、最深部で待ち受けるボスを倒すこと。
ボスを倒すと「地図」が手に入って、次の島へと行けるようになり、以降もそれを繰り返していく。至って単純だが、「悪の巣」に辿り着くまでには様々なイベントが行く手を阻む。探索型であることから、島ごとの構造(マップ)も入り組んでいるので、隅々まで調べていくことが重要。一筋縄ではいかない構成だ。
また、今回はシャンティが力を失っている関係で、魔法を始めとする特殊能力が使えない。代わりに「海賊の装備」なるものが「悪の巣」の探索中に手に入って、アクションが増えていく。遠距離攻撃、シミター(三日月刀)を突きたてての高速ダッシュ、巨大な帽子を利用しての空中浮遊など、いずれもシャンティの機動力を高めるものばかり。探索範囲を広げるほか、敵との戦いも一変させるほどの活躍を見せてくれる。
このシリーズにおける定番アクション、長い髪の毛を鞭に見立てた攻撃も健在。探索中に手に入るお金(ジェム)を支払い、威力を底上げするアイテムを「スカットル・タウン」のお店で購入する強化要素もあり、その加減によって難易度が大きく上下することも。
他にシャンティの体力最大値を上昇させる「命のイカ」、「闇の魔法」なるストーリーにも関係したアイテム(?)を集める要素も存在し、探索型ならではの隅々まで調べてプレイヤーを強くしていく遊びもバッチリ押さえられている。
全体的にこの手のアクションゲームを好むプレイヤーなら、納得の手応えと味わいを堪能できる内容に完成されている。ジャンルに慣れ親しんでないプレイヤーも、マップがステージクリア型の横スクロールアクションを意識した作りになっているので遊びやすい。入門編としてはこの上ない内容だ。
なお、Nintendo Switch版はPlayStation 4、Xbox One、WiiU、PC(Windows)版を基にしていて、本編には特に追加要素はない。ただ、「スカットルタウン」のお店にミニゲームが遊べる筐体が設置されるなど、本編以外の所には新要素が。また、Nintendo SwitchということでHD振動にも対応しているほか、携帯モードによる外出先でのプレイも可能というニンテンドー3DS版の強みも取り入れている。
そして、さらなる見所があるのだが……それは次の項で紹介する。
◇探索型アクションの醍醐味を堅実に押さえたゲームデザイン
アクションが一つ増える度に広がる行動範囲、多彩な仕掛けとイベントが盛り沢山で構造も練られたマップ、難しすぎず優しすぎもしない謎解きなど、探索型アクションのキモと言える部分は余すことなく網羅されている。
探索型アクションが初めてなプレイヤーに優しい作りになっているのもポイント。探索型と聞くと、迷路のように入り組んだマップをこまめに調べながら進める展開を想像しがちで、実際に本作も同様の展開を辿ることになるが、フロアごとの繋がりが分かりやすく、横に広い作りをしていることがほとんどなので、ステージクリア型のアクションゲームの感覚で進めていける。
本編の流れも島にある「悪の巣」でボスを倒したら次の島に向かう、これまたステージクリア型の流れを踏襲しているので、目的を見失うことなく進めていける。終始、そんな流れでは進まず、時々、クリアした島に戻るイベントも挟まれたりもするが、マップ画面と新たに習得したアクションの関係を考えれば、大体、どこに行けばいいのかが分かる。
昨今、インディーゲームの隆盛と共に多種多様な探索型アクションゲームが世に出るようになったが、その中で入門に適している作品は、と言われれば、筆者なら本作をその一つに挙げる。流れの分かりやすさもさることながら、回復アイテムを買い込んでの力押しも通用するバランスになっているのも大きい。
とは言え、向かうべき場所を詳細に教えてくれるガイド機能はないほか、終盤はアクションゲーム好きでも骨の折れる高難易度のエリアがあるなど、難易度の加減は中くらい。苦手な人には少し応える部分もあるので、そこは頭の片隅に入れておくとよいかもしれない。
◇明るい世界観
探索型アクションゲームで連想されがちなことで、洞窟や廃墟と言った薄暗い場所が舞台になるというのがある。そのことから、少々酷い言葉を用いると「陰気なゲーム」とのイメージを持つプレイヤーは少なからずいるかもしれない。
本作もそのような場所が舞台となる場面が多々あるが、明るい場所も相応に用意されている。何より、登場キャラクター達が皆、愉快で個性的な面々ばかりなので、陰気な印象は全く感じさせない。ストーリーも笑いあり、シリアス有りの偏りすぎない作り。最後まで重い気分になることなく楽しめるはずだ。
……一部、重い設定が見え隠れするイベントもあったりするが。
◇芸術的なドット絵で彩られたグラフィックとこれぞゲーム音楽な楽曲の数々
初代『シャンティ』の頃より定評のある、繊細なドット絵は本作においても健在。特にダンジョンの最深部で待ち受けるボスはいずれも巨体揃い、且つ滑らかに動くのもあって、思わず見とれてしまう迫力がある。
また、キャラクターデザインも日本のアニメを髣髴とさせる親しみやすさが強く滲み出た作風。実際に日本のイラストレーター、『ロックマンゼロ』シリーズ、『ロックマンゼクス』シリーズにおいてキャラクターデザインのほか、ディレクターやシナリオにも携わった経験のある元インティ・クリエイツのKOU氏がデザイン全般を担当されているので、その違和感の無さにも納得だ。
冒頭では言及しなかったが、シャンティシリーズは音楽にも定評がある。本作でもシリーズに音楽スタッフとして参加しているジェイク・カウフマン氏作曲による、これぞゲーム音楽と言わんばかりの印象深い楽曲が満載。人によっては、サウンドトラックを買いたくなるかもしれない。
◇Nintendo Switch版だけの二つの"特権"
先の通り、Nintendo Switch版はPS4、Xbox One、WiiU、Windows版を基にしつつ、ニンテンドー3DS版の携帯性も取り入れたバージョン。そして、HD振動への対応、ミニゲームの追加が実施されている。
さらなる特徴として価格。2500円に値下げされている。Xbox One版、Windows版よりもやや高めだが、PS4、WiiU、ニンテンドー3DS版はいずれも4000円ほどだったので、その手頃さがよく分かるはずだ。
また、もう一つ、テキスト全般の刷新がある。なんとNintendo Switch版はローカライズを新規にやり直しているのだ。そのため、イベントでの台詞、アイテムの名称が他機種版とは別物になっている。
オブラートに包まず書くが、他機種版のローカライズはお世辞にも良いとは言いがたいものだった。あるイベントでシャンティが男口調で喋り出したり、改行のタイミングがずれているなど、随所で詰めの甘さが出ていた。Nintendo Switch版では、それら全てが改善。さらに一部のキャラクターには新たな性格付けまで施されているのだ。
そのため、既に他機種版で本作を遊んだプレイヤーでも新鮮な気持ちで楽しめる。また、ゲームは良いのにローカライズの問題でストーリーが……というもどかしい思いを抱いたプレイヤーの不満も解消してくれる。改めてちゃんとした翻訳でストーリーを振り返りたい、との思いがあるなら、今すぐにでも突撃だ。
ローカライズに関してさらに付け加えると、キャラクターの性格付け、アイテム名称はNintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One、PC(Windows)で販売中の続編『シャンティ ハーフジーニーヒーロー:アルティメット・エディション』に準拠している。ゆえに本作プレイ後に同作へと移れば、より自然にストーリーを楽しめるという恩恵も得られる。この続編も本作に負けず劣らぬの出来なので、興味があればぜひ、遊んでみていただきたい。
繰り返しになるが、基本的な内容は先行したニンテンドー3DS版を始めとする他機種版と大差はない。あっても、ミニゲームとHD振動への対応程度だ。しかし、新規にローカライズし直されたテキスト、これまで販売された他機種版の強みを全て取り入れた作りで遊びやすく、そして手頃な価格設定でお求めになりやすい一本になっている。
既に発売から5年近くが経過するが、今なお色褪せぬ魅力を持ち続ける傑作だ。海外では絶大な人気を誇るこのシリーズの底力に触れてみよう。音楽目的で買ってもいけますよ。
【ゲーム情報】
タイトル:『シャンティ -海賊の呪い- for Nintendo Switch』
発売元・開発元:オーイズミ・アミュージオ / WayForward Technologies
対応ハード:Nintendo Switch
ジャンル:アクションアドベンチャー
価格:2,500円[税別](ダウンロード版)
関連リンク:
■第8回『X-Morph: Defence(エックスモーフ ディフェンス)』
■第4回『Pixel Junk Shooter Ultimete(ピクセルジャンクシューター アルティメット)』